スマートウォッチが(精度は措くとして)無症候性の心房細動(AF)を検出できるようになり、そのAFをどうすべきか患者さんから相談を受けるドクターも増えているようだ。抗凝固療法を考慮すべきだろうか。エビデンスとしては、常時AF監視(と早期抗凝固療法開始)による心血管系(CV)転帰改善作用を検討したランダム化比較試験(RCT)が2つ報告されているものの、いずれもネガティブな結果に終わっている[LOOP study. 2021、STROKESTOP trial. 2021]。
しかし今回、それらネガティブ試験の1つである“LOOP”から、興味深い後付解析が報告された。CV 1次予防例に限れば、常時AF監視により脳卒中を減らせる可能性も否定できないという。Int J Cardiol誌サイト10月31日掲出論文から紹介する[Xing LY, et al. 2022]。
まずLOOP試験の既報データを振り返る。
対象は70~90歳で、脳卒中リスク因子を有するもAF診断歴のない6004例だった。平均年齢は74.7歳、女性が47.3%を占めている。
これら6004例は「ループ型心電計植え込み」(常時AF監視)群と「通常治療」群にランダム化され、非盲検下で64.5カ月(中央値)間観察された。
「常時AF監視」群では、「6分間以上持続」のAFが検出された場合、経口抗凝固療法(OAC)開始が推奨された。「6分間以上」という基準は、「常時AF監視」と「脳梗塞」リスクの関係を検討した大規模試験“ASSERT”で得られた知見に基づいている(「6分間以上持続」で「脳梗塞・全身性塞栓症」ハザード比[HR]:1.76、95%信頼区間[CI]:0.99-3.11)[Healey JS, et al. 2012]。
その結果、「AF検出率」は「常時AF監視」群で有意に高くなり(31.8 vs. 12.2%)、OAC開始率も同様だった(29.7 vs. 13.1%)。にもかかわらず「脳卒中・全身性塞栓症」発生率は、両群間に有意差を認めなかった(4.5 vs. 5.6%、P=0.11)。(この結果をめぐる本試験報告、2021年欧州心臓病学会(ESC)でのディスカッションは、拙稿[Web医事新報]にて紹介)。
今回新たに報告されたのは、CV疾患合併有無別の解析である。66.7%に相当する4007例では試験開始時、CV疾患の合併を認めなかった。
そしてこれらCV 1次予防例では、「常時AF監視」群において「脳卒中・全身性塞栓症」ハザード比(HR)が0.65(95%信頼区間[CI]:0.44-0.94)の有意低値となっていた。後付解析のため存在する両群の背景因子の差を補正後も、HRは0.64(95%CI:0.44-0.93)の有意低値が維持された。6年間で「脳卒中・塞栓症」を1例予防するのに必要な「常時AF監視」数は「39」だという。
一方、CV疾患既往例では、全体解析と同様、「常時AF監視」による「脳卒中・全身性塞栓症」抑制作用は認められなかった。
本研究は公的資金と民間基金、Medtronicから資金提供を受けた。