大迫研究によれば、高血圧例の32.5%は、収縮期血圧のみが高血圧に相当する孤立性収縮期高血圧(ISH)、13.7%が孤立性拡張期高血圧(IDH)だった。一般的にIDHに伴う心血管系(CV)リスク上昇はISHに比べ小さいと考えられているが、脳卒中リスク著増を報告する中国からの長期観察研究もある。ではISH、IDHの治療において他剤よりもCVイベント抑制作用の強い降圧薬は存在するのだろうか―。そのような問いに答えるべく行われた解析が、11月5日からシカゴ(米国)で開催された米国心臓協会(AHA)学術集会で発表された。Stephen Y. Wang氏(イエール大学、米国)の報告から紹介する。
同氏が解析対象にしたのは降圧大規模試験“ALLHAT”である。診察室血圧「160-179/100-109mmHg」でCVリスク因子を有する、CV 1次予防3万3357例がランダム化され平均4.9年間、二重盲検法で観察された。なおα遮断薬服用群(9067例)は中央値3.3年観察時点で、利尿薬(クロルタリドン)に比べ、脳卒中と心不全リスクの有意著増が確認されたため(相対リスクはそれぞれ1.19と2.04)、早期中止となっている。
今回はその中から、「ISH」1万2845例と「IDH」1259例を抽出し、利尿薬群とCa拮抗薬(アムロジピン)群、ACE阻害薬(リシノプリル)群間の「総死亡・冠動脈イベント・脳卒中」リスクを比較した。
ISH例の平均年齢は69歳、50%が女性だった。IDH例では63歳、60%である。CVリスク因子は、IDHのACE阻害薬群でCa拮抗薬群に比べ高コレステロール血症例の割合が高かった点を除き、ISH、IDHとも3つの薬剤群間に有意差はなかった。
その結果、ISH、IDHいずれにおいても、「総死亡・冠動脈イベント・脳卒中」リスクは利尿薬とCa拮抗薬、ACE阻害薬群間に有意差を認めなかった。
一方、心不全リスクには薬剤間の差を認めた。すなわち、Ca拮抗薬服用ISH例では利尿薬服用ISH例に比べ、心不全発症の補正後ハザード比(HR)が1.39(95%信頼区間[CI]:1.20-1.61)の有意高値だった(P<0.001)。一方、ACE阻害薬群における補正後HRは1.13(0.97-1.32)である。
IDH例においても、Ca拮抗薬群の対利尿薬群HRは2.17(1.07-4.41)、ACE阻害薬も2.25(1.06-4.77)だったが、α過誤回避のために設定された有意水準「P<0.0178」に達していなかった。
なおALLHAT全体の解析では、Ca拮抗薬、ACE阻害薬とも、利尿薬に比べ心不全リスクの有意上昇が認められている(相対リスクはそれぞれ1.38と1.19)。
この「心不全」診断には、「降圧治療による心不全発症抑制」のエビデンスであるSHEP試験と同一基準が用いられている(下肢浮腫を認めるのみでは心不全と診断されない)Davis BR, et al. 2006。
本研究の限界としてWang氏は、①およそ4割が追加降圧薬(β遮断薬、クロニジン、レセルピン)を服用しており、それらの影響を除外できない、②「総死亡・冠動脈イベント・脳卒中」以外のイベントを評価するには検出力が足りない、の2点を挙げた。
本解析は、学会開催前の8月4日にAm Heart J誌ウェブサイトで公開されていた。
本解析に開示すべき利益相反はないとのことである。ALLHAT研究本体は米国国立心肺血液研究所から資金提供を受けて実施された。