1 便秘とは
「慢性便秘症診療ガイドライン2017」では,便秘を「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義している。つまり,排便回数の減少以外に,排便時の過度の怒責,残便感なども便秘に含まれる。「便秘症」とは,便秘による症状(代表例:腹痛,腹部膨満感,過度の怒責,残便感,直腸肛門の閉塞感など)が現れ,検査や治療を必要とする場合を指す。
2 便秘の分類
便秘は大きく急性便秘と慢性便秘にわけられる。一般に急性便秘は日から週の単位で発症する。一方,慢性便秘は数カ月以上に及ぶもので,特発性と続発性に大別される。特発性便秘は明らかな誘因がなく生じる便秘で,さらに腸管拡張を伴うものと伴わないものにわけられる。続発性便秘は薬剤の副作用として起きる薬剤性便秘,大腸癌などにより大腸に形態的変化をきたしたことにより生じる器質性便秘,腸管に形態的異常はないものの,糖尿病やパーキンソン病などにより生じる症候性便秘が含まれる。
3 便秘を訴える患者の病歴聴取で気をつけること
まず,患者が訴える便秘が具体的にどのような症状を指し,どのような症状に困っているのかを確認する。患者が困っている症状を確認することは,今後の治療方針を決定する上でも重要である。さらに,初療で重要なのは警告徴候がないかを把握することである。たとえば,血便や体重減少などの警告徴候がある場合は,便秘に隠れた重大な器質的疾患の可能性を考えて,その評価を優先させなければならない。便秘に関連した警告徴候として以下のものが挙げられる(一部身体所見,検査結果を含む)。
血便,意図しない体重減少,原因不明の鉄欠乏性貧血,突然または急性発症の排便習慣の変化,便柱狭小化,発熱,腹部腫瘤またはリンパ節腫脹,大腸癌の家族歴があるが年齢に応じた大腸癌スクリーニングを受けていない,症状の発症が50歳以上で年齢に応じた大腸癌スクリーニングを受けていない,など。
加えて,併存疾患と既往歴,服用薬,食事を含めた生活習慣を確認する。便秘,特に慢性便秘に関連して聞くべきこととして,発症時期,便秘薬を服用しない状態での排便頻度,以前の排便習慣,便秘薬を服用しない状態での便の性状,排便時の怒責・自己摘便・残便感の有無,便秘薬使用の有無,使用する場合にはその種類と使用頻度,過去の大腸内視鏡検査歴とその結果などがある。排便時の肛門の閉塞感,自己摘便,残便感は排便障害を示唆する症状である。
4 便秘の患者の身体診察
腹部診察では,腹部膨満,手術痕,圧痛,腫瘤がないかを確認する。また,病歴から排便障害が疑われる場合には,必ず直腸診を行う。
5 内視鏡検査の適応と注意点
前述した警告徴候がある場合は,大腸内視鏡検査の適応がある。最近急に排便習慣の変化が出現した症例で,S状結腸から直腸の高度狭窄が疑われる場合には,まずCTで狭窄の度合いを評価する。通常の前処置が危険であると判断されれば,前処置なし,あるいは浣腸のみで病変部を評価する。判断に迷うときには,事前に検査を行う専門医に相談する。
6 続発性便秘の原因
医原性である薬剤性便秘の可能性を考えて病歴を聴取すると同時に,大腸癌をはじめとする器質性便秘を示唆する警告徴候がないかに注目して病歴聴取と身体診察を行う。これら2つが否定されたらそれ以外の原因を検索する。