不安定狭心症は,急性心筋梗塞,心筋虚血に伴う心臓突然死とともに,冠動脈内の血栓形成により生じる急性冠症候群に含まれる。また,非ST上昇型急性冠症候群の中で,心筋バイオマーカーの上昇がないものを不安定狭心症と言うが,マーカーとしてCKを診断に用いていた頃に不安定狭心症とされた症例でも,マーカーとしてトロポニンがメインとなった現在では,急性心筋梗塞と診断される症例が日常臨床では非常に多くなった。それについては,時間が経過してからわかることであり,初期の診断・治療において不安定狭心症は,非ST上昇型心筋梗塞と共通するところがきわめて多い。
急性冠症候群に共通する胸痛の特徴として,前胸部や胸骨後部に圧迫感・絞扼感があり,「焼けつく」と表現されることもあるが,高齢者・糖尿病・腎機能障害患者などでは典型的な痛みよりも胸部や心窩部の不快感,あるいは放散痛のみのこともあり,注意を要する。
不安定狭心症の胸痛・胸部症状等の持続時間は数分程度が多く,長くても20分ほどである。それ以上症状が持続する場合で,なおかつ,その性状が急性冠症候群に起因すると考えられる場合には急性心筋梗塞である可能性が高い。
他疾患との鑑別も含め,12誘導心電図,採血,心エコー,胸部X線写真などが必要である。特に12誘導心電図はきわめて重要であり,症状出現時の0.1mV以上のST低下,または陰性U波の出現などは心筋虚血を疑う所見として有名であるが,以前の心電図がとってあればそれと比較し,何か変化したところがあれば,本疾患を疑うことが肝要である。
また,左前下行枝近位部の高度狭窄が原因の不安定狭心症には,胸痛を一度自覚し,症状が消失後の時間帯に前胸部誘導でT波に心電図変化を示すもの(Wellens症候群)があり,診断的意義が高い。
心エコーでは,虚血領域に壁運動異常がみられることがある。また,左室収縮能に問題がなくても,虚血領域に一致して局所的に拡張能障害がみられることがあるが,この判断には高度な技術が必要である。なお,不安定狭心症を含む急性冠症候群が疑われる場合に,運動負荷試験は禁忌である。
定義上,心筋バイオマーカーが上昇していないものが不安定狭心症である。虚血性心疾患のリスクとして,高血圧,糖尿病,脂質代謝異常などがあるが,検査所見にそれらのリスク因子が反映されている症例は多い。
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