がん患者の心房細動(atrial fibrillation:AF)発症リスクは高い。韓国における大規模調査では、対非がん患者のハザード比[HR]は1.63(95%信頼区間[CI]:1.61-1.66)。特に食道癌(HR:2.69、95%CI:2.45-2.95)、多発性骨髄腫(同:3.34、2.98-3.75)におけるリスク増が著明だった[Yun JP, et al. 2021]。一方、がん合併AF例では非がんAF例に比べて大出血リスクの増加(HR:1.27、95%CI:1.26-1.28)も報告されている[Pastori D, et al. 2021]。そのため抗凝固療法の適応を考えるには脳梗塞・塞栓症リスクの把握が重要となる。
そのような観点から興味深い報告が、JACC Cardio-Oncol誌ウェブサイトに1月17日付で掲載された。イスラエル住民コホートを用いた観察研究である。がんを合併する「CHA2DS2-VAScスコア≦2」AF例の1年間動脈血栓塞栓症発生率は2.13%。がん非合併AFに比べ2.7倍のリスク増だった。Avi Leader氏(Rabinメディカルセンター、イスラエル)らの報告から紹介する。
解析対象となったのは、「CHA2DS2-VAScスコア≦2」のAF患者5644例である。「抗凝固薬服用例」や「がん診断歴」のある例は除外されている。
平均年齢は64歳、男性が74%を占めた。CHA2DS2-VAScスコアは「0」が11%、「1」は31%、「2」が58%だった。
その結果、動脈血栓塞栓症(atrial thromboembolism:ATE、脳梗塞、一過性脳虚血発作、全身性脳血栓塞栓症)発生率を比較すると、半年後はがん「合併」AF群で1.63%、「非合併」AF群は0.44%と「合併」群で有意に高く、1年後も2.13%と0.80%で同様だった(HR:2.70、95%CI:1.65-4.41)。ただし3年後は、3.22 vs. 2.29%と「合併」群で高値傾向を示すも有意差とはならなかった(発生率はすべて「死亡」を競合リスクとして解析)。
そこで1年間のATE発生リスクを、CHA2DS2VAScスコア別に解析した。すると「男性:0、女性:1」ではがん「非合併」群に比べた「合併」群のHRは3.03(95%CI:0.75-12.09)と有意差を認めなかった一方、「男性:1、女性:2」では6.07(2.45-15.01)の有意なリスク増加を認めた。
このような集団に対する抗凝固療法の是非は、前向き比較試験による検討が必要だとLeader氏らは記している。
本研究には開示すべき資金提供者はないとのことである。