わが国の糖尿病(DM)のガイドラインでは、血糖値「正常型」と「DM型」の間に「境界型」が設定されている。米国糖尿病学会ではさらにこの「境界型」の中から、空腹時血糖値異常(IFG)と耐糖能異常(IGT)を併せ持つ(かつHbA1cは6.5%未満)患者を「DM予備群」(prediabetes)という独立したカテゴリーに分類している。
DM予備群はその名のとおりDMへの移行リスクが高いだけでなく、心腎イベントも高い[Schlesinger S, et al. 2022]。ただしDM予備群に対する介入が転帰を改善するかどうかは、結果が分かれている[Gong Q, et al. 2019、Lee CG, et al. 2021]。
しかし対象を若年者に絞れば介入による転帰改善の可能性が上がるかもしれない。そのような示唆を呼ぶ研究がLancet Regional Health - Western Pacific誌の1月号に掲載された(オンライン公開は'22年9月)。筆頭著者は香港中文大学のXinge Zhang氏。概要をご紹介したい。
解析対象となったのは、香港の公的病院に記録の残っていた、心血管系(CV)疾患や慢性腎臓病(CKD)、がん診断歴のない非DM 163万942名である。これらを「DM予備」群と「非DM予備」(血糖値正常型・低リスク境界型)群に分け、転帰を比較した。
7.8年間(中央値)のイベント発生率は全体で、血管系疾患*が5.0%、CKDは14.1%、また慢性心不全が1.1%、全死亡が6.0%だった。
[*血管系疾患:冠動脈疾患、脳卒中、末梢動脈疾患]
次にこれらのリスクを「DM予備」群と「非DM予備」群で比較すると、いずれも前者で有意に高くなっていた。諸因子補正後の「DM予備」群ハザード比(HR)(95%信頼区間[CI])は、血管系疾患:1.21(1.18-1.23)、CKD:1.19(1.17-1.20)、心不全:1.19(1.14-1.27)、全死亡:1.18(1.16-1.20)である。
この「DM予備」群における各イベントの有意なリスク増加は、「のちにDMを発症した例を除外して」比較しても有意だった。「DM予備群そのものが臨床イベントと相関している」と原著者らは考察している。
さらにこれらのイベントリスク増加は、若年者ほど大きくなる有意な傾向が認められた(「20-39歳」「40-59歳」「60-79歳」「80歳以上」比較で傾向P値「<0.001」)。
すなわち「血管系疾患」を一例に挙げると、「60-79歳」における「DM予備」群HRは「1.10」(95%CI:1.06-1.15)だが、「40-59歳」では1.34(1.27-1.41)だった。CKD(1.15 vs. 1.23)、心不全(1.15 vs. 1.30)、全死亡(1.20 vs. 1.29)も同様である。
この結果から原著者らは、若年者における糖尿病予備群スクリーニングが有用と考えているようだ。
本研究は特定の資金提供を受けていないとされる。