ヘリコバクター・ピロリ感染症とは,ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)が胃に持続感染した状態である。持続感染により慢性胃炎を惹起し,次第に胃粘膜固有腺の萎縮がみられるようになる。胃粘膜萎縮と胃癌発生リスクは相関するため,胃癌抑止のために除菌療法が行われる。また,胃・十二指腸潰瘍やMALTリンパ腫,特発性血小板減少性紫斑病の原因にもなる。
ヘリコバクター・ピロリ感染症に対する治療を行うためには,上部消化管内視鏡検査を行い,感染の可能性があると内視鏡医が判断した場合に以下の検査を行う。すなわち,内視鏡検査が必要な①迅速ウレアーゼ試験(RUT),②鏡検法,③培養法,内視鏡検査の必要がない④抗体測定法,⑤尿素呼気試験(UBT),⑥便中抗原測定法,である。両者を併用することによって,その精度は上がる。
わが国では一次治療,二次治療は保険診療として定められている。プロトンポンプ阻害薬(PPI)+アモキシシリン(AMPC)+クラリスロマイシン(CAM)による7日間の一次除菌療法が2000年に保険適用され,長年用いられてきた。2014年にはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)であるボノプラザンフマル酸塩が発売され,従来型のPPIとともに用いられている。
最近ではP-CABを用いた治療が広く普及しており,除菌率は総じて90%程度である1)。除菌療法の普及に伴い,いくつかの問題点が挙がってきたが,その中でもCAM耐性菌の増加,一次除菌率の低下が最重要課題である。現在では20%以上が耐性菌であると報告されており,P-CABを用いた3剤併用療法においても,耐性菌に対する除菌率は75~80%程度である(PPIを用いた3剤併用療法では50%程度)。
一次除菌療法失敗患者には,PPI+AMPC+メトロニダゾール(MNZ)による7日間の二次除菌療法が2007年に保険適用となっている。二次除菌療法でもP-CABを用いた治療が行われ,広く普及している。わが国の二次除菌療法はMNZ耐性菌率が約3~5%と低いため,除菌率は約85~90%と良好であると報告されている。一次,二次除菌療法に失敗する患者は全体の2~5%程度と想定されており,三次除菌療法としてニューキノロン系薬などによる除菌方法も報告されているが,現在のところ三次除菌療法は保険適用となっていない。
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