2013年、米国心臓協会(AHA)と米国心臓病学会(ACC)が合同で公表した高コレステロール血症治療ガイドラインは、LDL-C管理目標値をなくし(十分なエビデンスがないと説明)、さまざまな強度のスタチンを心血管系(CV)リスクと治療前のLDL-C値に応じて推奨する形に変更した。LDL-C到達値測定を必要としないこの方法は、軍事用語になぞらえて「Fire and Forget」(撃ちっぱなし)と呼ばれている。一方従来型の、LDL-C管理目標値に向けて薬剤の種類や用量を工夫する方法は「Treat to Target」(目標達成に向けた治療)である。わが国ガイドラインでは今日まで一貫して「Treat to Target」方式が採用されてきた。
ではこの2種類のアプローチ、CVイベント抑制の観点からはどちらが優れているのだろうか? その問いに答えを出すべく実施されたランダム化比較試験(RCT)"LODESTAR"が、4日から米国ニューオーリンズで開催された米国心臓病学会(ACC)学術集会で報告された。Myeong-Ki Hong氏(延世大学、韓国)の報告を紹介したい。
LODESTAR試験の対象となったのは、冠動脈疾患(安定冠動脈疾患または急性冠症候群)診断歴のある4400例である。LDL-C値の高低は問わない。
平均年齢は65歳、女性は3割弱のみだった。56%ではPCI、8%にCABG施行歴があった。
試験開始前にスタチンを服用していたのは全体の16%で、全体のLDL-C平均値は87mg/dLだった。
これら4400例は「LDL-C<70mg/dL」を目指す「Treat to Target」群(<50mg/dLまで低下した際には減量)と「Fire and Forget」群にランダム化され、非盲検下で3年間観察された。「Fire and Forget」群では、先述AHA/ACCガイドラインで中等強度スタチンの適応があればロスバスタチン10mg/日かアトルバスタチン20mg/日、高強度スタチンが必要な患者ではその倍量が用いられた。
その結果、1次評価項目である「死亡・心筋梗塞・冠血行再建・脳卒中」の3年間発生率は「Fire and Forget」群で8.7%、「Treat to Target」群が8.1%となり、「Treat to Target」群に対する「Fire and Forget」群の「非劣性」が確認された(非劣性マージン:3.0%)。
ただし試験設計時には両群とも12%のイベント発生率が前提となっており、上記解析は検出力が不足している可能性がディスカッションで指摘されている。
なお両群のカプランマイヤー曲線は乖離とオーバーラップ、時には交差しながら推移していた。
脂質代謝だが、各群平均LDL-C値は試験開始後1.5カ月の時点で「Fire and Forget」群で有意低値となったものの、その後は両群間に差を認めず、おおむね70mg/dL弱で推移した。
「LDL-C<70mg/dL」達成率も同様の経過をたどった。
なお「Treat to Target」群でスタチンが当初用量から増量されたのは17%、試験終了時には20%がエゼチミブを併用していた。一方「Fire and Forget」群における最終的なエゼチミブ併用率は10%だった。
安全性については、「スタチン中止」は「Treat to Target」群:1.5%、「Fire and Forget」群:2.2%で有意差なく(P=0.09)、「糖尿病発症」や「筋障害」にも有意差はなかった。
「Treat to Target」に比べ医師の手間は省ける「Fire and Forget」だが、非盲検試験ということもあり「この試験だけで臨床を変えて良いか」という疑問もディスカッションでは聞かれた(これに対するHong氏の明確な回答はなし)。
また「Treat to Target」群のLDL-C下限を50mg/dLに設定せず、さらに低値まで下げた場合も「Fire and Forget」は非劣性だろうかという声も上がった。
本試験はSamjin PharmaceuticalとChong Kun Dang Pharmaceuticalから資金提供を受けて実施された。
また報告と同時にJAMA誌ウェブサイトで論文が公開された。