妊娠中に取り扱う糖代謝異常は,①糖尿病合併妊娠,②妊娠糖尿病,③妊娠中の明らかな糖尿病,の3つに分類される。すなわち,既に糖尿病と診断のついた女性が妊娠した場合が糖尿病合併妊娠であり,妊娠中に初めてみつかった耐糖能異常が後2者である。妊娠中の明らかな糖尿病は,妊娠前より存在した糖尿病と考えられる耐糖能低下であり,具体的には,非妊娠時の糖尿病判定基準を満たすようなタイプである。妊娠糖尿病は,妊娠中に初めて発見または発症した糖尿病に至っていない糖代謝異常のうち,妊娠中の明らかな糖尿病を含めないものである。
糖代謝異常合併妊娠の診断と治療の目的は,①母体の妊娠合併症(妊娠高血圧症候群,肩甲難産,帝王切開)の発症率を下げる,②周産期合併症(先天奇形,巨大児,新生児黄疸,新生児低血糖など)の発症率を下げる,③将来の母体の2型糖尿病発症を予防する(妊娠糖尿病の場合),④将来の児の生活習慣病発症を予防する,の4点である。
いずれの耐糖能異常においても妊娠中の治療としては,厳格な血糖コントロールが重要であり,そのためには食事療法とインスリン療法が中心となる。
妊娠前の管理としては,先天奇形発生を低下させるためには,妊娠前からの厳格な血糖コントロールを行い,計画妊娠(prepregnancy clinic)することが肝要である。
妊娠中の目標血糖値について,日本糖尿病学会,日本産科婦人科学会は,静脈血漿グルコース値で,食前100mg/dL以下,食後2時間値120mg/dL以下を推奨している。この目標血糖値を達成するためには,血糖自己測定が必要となる。妊娠前のHbA1c値の目標は,6.5%未満(低血糖を生じない程度)とする。
分娩時の高血糖は胎児機能不全や新生児仮死,新生児低血糖のリスクと関連する点で重要である。インスリン療法が施行される近年では,実地臨床上,特に後者が重要である。また,分娩中の血糖コントロールは,特に糖尿病合併妊娠で新生児低血糖と関連することが知られており,分娩中は70~120mg/dLを目標血糖値とし,1~3時間ごとに血糖をチェックする。
一般に経口血糖降下薬は,妊娠判明後は禁忌である。
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