直接経口抗凝固薬(direct oral anti coagulants:DOAC)はワルファリンと異なり抗凝固作用の評価が困難だが、近年、その血中濃度が抗凝固作用の指標になり得るとの知見が報告されている。DOAC服用下で脳梗塞をきたした例における、血栓溶解療法の適応を判断するための目安として検討された。
すなわち直接トロンビン阻害薬、第Xa因子阻害薬を問わず、推算血中濃度が「<50ng/mL」であれば(原則的に)経静脈的抗凝固療法(intravenous thrombolysis:IVT)の適応があり、「50−100ng/mL」ならば重症例に限りIVT考慮、「>100ng/mL」ならばIVT適応なし—と提唱されており、この基準に従った場合の安全性はER-NOACレジストリ(Erlangen Registry of Patients on Oral Anticoagulation)で確認されている[Marsch A, et al. 2019]。
さらに同レジストリではDOAC濃度「<50ng/mL」例における、「≧50ng/mL」例と比べた脳梗塞発症時NIHSS(National Institute of Health Stroke Scale)の有意高値も報告されている[Macha K, et al. 2019]。
つまりDOAC濃度「<50ng/mL」では、抗凝固作用が十分ではない可能性がある。
そこでDOAC濃度と脳梗塞後機能予後との相関を検討したのが、Shin-Yi Lin氏(国立台湾大学)らである。Eur J Intern Med誌3月27日掲載の論文から紹介する。
解析対象となったのは、DOAC服用下で脳梗塞・一過性脳虚血発作(transient ischemic attack:TIA)をきたした105例である。搬入時血中DOAC濃度と3カ月後の修正ランキンスケール(mRS)の関係を検討した。
血中DOAC濃度は、前出ER-NOACレジストリで脳梗塞重症度との相関が認められたカテゴリー、すなわち推定血中濃度「<50ng/mL」(低濃度)、「50−100ng/mL」(中等濃度)、「>100ng/mL」(高濃度)の3群分類を採用した[前出、Macha K, et al. 2019]。ただし今回は例数が少なかったため、「<50ng/mL」の「低濃度」群(45例)と「≧50ng/mL」の「有効濃度(effective drug level)」群(60例)の2群比較となった。
濃度測定には液体クロマトグラフィータンデム質量分析装置(LC-MS/MS)を用いた[Jhang RS, et al. 2020]。
まず脳梗塞・TIA発生例における両群の割合を比較した。すると(意外なことに)「有効濃度」例が57.1%を占め、「低濃度」群(42.9%)よりも高い傾向にあった(この理由についての考察はなかった)。
次に脳梗塞・TIAの重症度を比較すると、DOAC「低濃度」群のNIHSS平均値は「14」と「有効濃度」群の「9」に比べ高い傾向を示したが有意差には至らなかった。
なお脳梗塞に対する血栓溶解療法と血管内治療の施行率、また抗凝固薬に対する中和剤使用率は、両群間に有意差を認めていない。
一方、発症3カ月後の「mRS;4−6」の割合は、DOAC「低濃度」群で53.5%となり、「有効濃度」群の33.3%に比べ有意に高かった(1次評価項目)。
さらに「低濃度」群における発症3カ月後「mRS;4−6」オッズ比は、両群の背景因子を調整後も「有効濃度」群に比べ5.08(95%信頼区間:1.32−19.63)の有意高値だった。
Lin氏らはこの結果から脳梗塞急性期におけるDOAC濃度を予後予知因子と評価しているが、一連の研究はDOACの抗凝固作用モニタという観点からも興味深い。
本研究は台湾科学技術省、台湾教育省の支援を受けた。