【概要】千葉大は4月25日、降圧剤バルサルタン(商品名=ディオバン)を用いた「VART study」について「データ改竄を否定できない」とする最終調査報告書を発表した。
VART study(代表者=小室一成教授〔当時〕)は、高血圧患者1021人を対象にPROBE法によりバルサルタンとアムロジピンを比較。心腎臓保護効果でバ群が勝っていたとの結論をまとめ、2010年に「Hypertension Research誌」で発表した。昨年12月に公表した内部調査による中間報告書では、108症例のカルテとカルテデータを入力した症例データを照合した結果、二次エンドポイントでの相違を指摘したが、意図的操作は否定した。
●論文に多数の問題が判明
千葉大の「研究活動の不正行為対策委員会」(松元亮治委員長)は4月25日、第三者機関による調査結果を踏まえた最終調査報告書を公表した。
この調査では、108症例のカルテデータと、1021症例の症例データ、症例データを解析した論文の整合性を調査。
その結果、一次エンドポイント(複合心血管イベント)は、両群に有意差はないとの結論は変わらなかったが、カプラン・マイヤー曲線とハザード比が論文と症例データで一致しなかった。
血圧値に関しては、2群間の達成値が等しいことに以前から疑義が指摘されていたが、カルテデータと症例データの測定値を照合した結果、合致率は収縮期血圧値54.8%(バ群49.3%、ア群59.2%)、拡張期血圧値56.4%(バ群51.2%、ア群60.6%)と低く、論文の血圧の推移図が、バ群とア群が逆に記載されていることも判明した。ただ、カルテデータと症例データから作成した推移図はほぼ一致していた。
二次エンドポイントは、多数の問題点が判明。「左室心筋重量係数」では、論文の図が不正確で、「血漿ノルエピネフリン」は、症例データから作成した図と論文の図が大きく異なり、「重回帰モデル」による統計解析も手法が不適切と判断された。統計解析の方法は、「心縦隔比」「尿中アルブミン/クレアチニン比」でも不適切と判断され、後者では症例データから作成した図と論文の図が大きく異なった。
こうした結果から委員会では、「データ改竄を否定できず、本論文の科学的価値は乏しい」とした。