糖尿病(DM)例の約1割は慢性閉塞性肺疾患(COPD)を合併している[Minakata Y, et al. 2008、Kerr EA, et al. 2007]。さらにDM例ではCOPD発症リスクが22%有意に増加すると報告した観察研究もある[Ehrlich SF, et al. 2010]。
しかしこのような関係は「DM」に至る前から始まっているようだ。また喫煙者と非喫煙者ではDMがCOPDに与える影響が異なっている可能性もある。"Diabetes, Obesity and Metabolism"誌5月29日掲載の論文を紹介したい。著者は中国・南京医科大学のJian Su MM氏らである。
同氏らが解析対象としたのは、英国の自主参加住民コホート"UK Biobank"に登録された、COPD診断歴のない45万2680例である。
平均年齢56.8歳、女性が54.8%を占めた。
また6.0%が「DM」、11.8%は「preDM」(非DMでHbA1c:5.7%以上6.5%未満)だった(いずれも過去の診断歴や検査値、使用薬から判断)。
これらを12.3年間(中央値)観察したところ、1万2598例(2.8%)がCOPDを発症した。
そして観察開始時DM例では非DMの参照例(HbA1c:5.7%未満)に比べ、COPD発症ハザード比(HR)は1.35(95%信頼区間[CI]:1.24-1.47)と有意に高くなっていた。
preDM例でも同様で、COPD発症HRは1.18(95%CI:1.13-1.24)の有意高値だった。
次にDM罹患期間とCOPD発症リスクの関係を見ると、非喫煙者では両者に相関を認めなかった一方、喫煙者では発症後およそ13年間は参照例に比べDM例で有意に高い発症リスクを認めたが、その後は有意差を認めなかった。
DM例だけでなくpreDM例でもCOPD発症リスクが増加していたため、それらの表現型として出現する以前から、糖代謝異常の進展そのものがCOPDリスクを増加させている可能性を原著者たちは考えている。機序として想定しているのは高インスリン血症のようだ[Singh S, et al. 2016]。
また同氏らは今後、血糖コントロールがCOPD発症リスクを低減できるか、この点も検討する必要があるとする。
なおすでにCOPDを発症しているDM例では、SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬のCOPD増悪抑制作用がSU剤に比べ強いとする、大規模観察研究が報告されている(DPP-4阻害薬はSU剤と有意差なし)[Pradhan R, et al. 2022]。
本研究には申告すべき利益相反はないとのことである。