2022年に公開された「糖尿病治療のエッセンス」(「日本糖尿病対策推進会議」編)には、「日本人においては,より低いBMI[25未満、編注]でも(略)インスリン抵抗性が糖尿病の病態に強く影響する場合もある」と記されている。
では痩身者の2型糖尿病(DM)発症に、インスリン抵抗性はどれほど関与しているのだろう。
この点について興味深い観察研究が、6月23日から米国サンディエゴで開催された米国糖尿病学会(ADA)83回学術集会において韓国から報告された。報告者は釜山大学のDoohwa Kim氏。痩身者2型糖尿病発症におけるインスリン抵抗性の重要性が示唆される結果となった。
同氏らが解析対象としたのは、韓国住民コホート(1万38名)中、糖代謝異常(ADA基準)を認めなかった3700名である。
観察開始時の平均年齢は51.1歳、男性が47%だった。そしてBMI平均値は「24.1kg/m2」で、比較的痩身な集団と考えられる。
これら3700名を10年間観察し、糖尿病予備群(PreDM)への移行、ならびに2型DM発症を観察した。
その結果、59.7%がPreDMへ移行、6.5%が2型DMを発症した。PreDM移行群と2型DM発症群では観察開始時に比べ観察終了時、BMIの有意増加を認めたものの、増加幅はPreDM移行群で0.1、DM発症群でも0.3弱だった(多くの例が痩身を維持)。
まずインスリン感受性と糖代謝増悪の関係を見ると、観察開始時には3群に差のなかったインスリン感受性だが、経時的に群間差が広がった。
その結果、10年間の低下率は「非増悪」群16.6%に対し「PreDM移行」群は31.1%、「2型DM発症」群では46.6%となっていた(検定なし)。
一方β細胞機能は観察開始時点ですでに「非増悪」「PreDM移行」「2型DM発症」群の順で低く、その後10年間の低下率も9.3%、16.6%、42.8%と、糖代謝が悪化する例ほど大きい傾向を認めた(いずれも群間差の検定なし)。
そこで次に「インスリン抵抗性増悪」が糖代謝増悪に与える影響を、観察開始時のβ細胞機能の高低別に比較した(「観察開始時のβ細胞機能の高低」と「観察中のインスリン感受性低下幅の大小」で4群に分類して比較)。
その結果、「PreDM移行」率は、観察開始時β細胞機能の高低を問わず、インスリン感受性低下幅が大きい群で有意に高くなっていた(下記参照)。
同様に2型DM発症リスクも、インスリン抵抗性増悪に伴うリスク上昇を認めた。ただし有意差となったのはβ細胞機能「低」群でのみだけである。β細胞機能「高」群で2型DM発症リスクが有意に上昇しなかった理由をKim氏は、正常なβ細胞機能により「代償」されるためだろうと考察していた。
<PreDM移行率>
観察開始時β細胞機能「高」
観察中インスリン感受性低下幅「大」:38.2%
観察中インスリン感受性低下幅「小」:26.9%(P<0.001)
観察開始時β細胞機能「低」
観察中インスリン感受性低下幅「大」:50.6%
観察中インスリン感受性低下幅「小」:34.7%(P<0.001)
<2型DM発症率>
観察開始時β細胞機能「高」
観察中インスリン感受性低下幅「大」:2.5%
観察中インスリン感受性低下幅「小」:1.3%(P=0.119)
観察開始時β細胞機能「低」
観察中インスリン感受性低下幅「大」:6.5%
観察中インスリン感受性低下幅「小」:2.6%(P=0.001)
これらよりKim氏は、痩身者であっても生活習慣改善を介したインスリン感受性維持が、特にβ細胞機能低下例では、糖代謝異常抑制の観点から重要だろうと結論した。
本試験には開示すべき利益相反はないということである。