肥満例が減量に成功した場合、減量に伴う消費エネルギー量減少を認めるケースが多い。「代謝適応」と呼ばれる現象であり、減量の維持を困難にする一因と考えられている[Christoffersen BØ, et al. 2022]。
一方GLP-1/GIPアゴニストであるチルゼパチドでは、減量に伴うエネルギー消費の「増加」がマウスを用いた研究で明らかになっており[Coskun T, et al. 2018]、「代謝適応」を引き起こさない可能性が指摘されていた。
ではヒトではどうか?
この点を検討した小規模ランダム化比較試験(RCT)が、6月23日から米国サンディエゴで開催された米国糖尿病学会(ADA)第83回学術集会において報告された。報告者は米国・ペニントン生物医化学研究所のEric Ravussin氏。少なくとも短期的には、チルゼパチド開始後の「代謝適応」は認められないようだ。
Ravussin氏らが検討対象としたのは、22~59歳で糖尿病を合併していない肥満者55例である。
平均年齢は50歳弱、平均体重は100kg強、BMI平均値は37kg/m2だった。
これら55例はチルゼパチド(2.5→15mg/日)群とプラセボ群にランダム化後、二重盲検下で18週間観察され、観察期間前後のエネルギー代謝や体組成などが比較された。
エネルギー代謝指標とされたのは、摂食と身体活動の影響を受けにくい「睡眠時エネルギー代謝率」である。
その結果、まず体重は、チルゼパチド群の95.8%が18週間で「12%超」の減量を達成した。プラセボ群は8.0%のみである。
にもかかわらず、チルゼパチド群の「睡眠時エネルギー代謝率」は使用前に比べ、200kcal/日の低下傾向は認めたものの有意差には至らず、またプラセボ群とも差はなかった(18週間経過後)。
隔離状況下における24時間安静下熱量消費量[Ravussin E, et al. 1985]も同様だった。チルゼパチド群では使用前に比べて18週間後に約400kcal/日の低値となるも有意差とはならず、またプラセボ群とも差を認めなかった。
「チルゼパチドによる減量は代謝適応を引き起こさない」とRavussin氏は述べた。
体組成に与える影響はどうか。
呼吸商の評価からは、チルゼパチド使用開始後に「脂肪」燃焼の有意増加、「炭水化物」と「蛋白質」燃焼の有意減少が認められた。特に炭水化物の燃焼抑制が著明だった(プラセボ群はいずれも有意な変動なし)。
体組成そのものを比較すると、チルゼパチド群ではプラセボ群に比べ「脂肪」重量が約6kg、「除脂肪」重量も3.5kgほど、有意に低値となっていた(DXA評価)。
なおチルゼパチド群における有害事象は、「悪心」が最多(51.9%)で「便秘」「注射部位反応」(いずれも37.0%)、「嘔吐」(25.9%)が続いた。
また重篤有害事象として膵炎が1例で報告されている。
質疑応答においてRavussin氏は、2型糖尿病を合併していても同様の結果だろうと考察していた。
本試験の資金提供源については開示がなかった。なお責任著者と半数以上の著者はEli Lilly and Company(米国)社員だった。