貧血は慢性心不全の予後増悪因子だが[Yamauchi T, et al. 2015]、標準的治療薬であるレニン・アンジオテンシン系阻害薬(RAS-i)は慢性心不全例のヘモグロビン(Hb)値を下げ[Anand IS, et al. 2005]、貧血リスクを上げる[Ishani A, et al. 2005]。しかしARB・ネプリライシン阻害薬(ARNi)は、このRAS-iによる貧血リスクを抑制する可能性があるようだ。英国・グラスゴー大学のJames P. Curtain氏らがランダム化比較試験"PARADIGM-HF"後付解析の結果として、JACC HF 7月号で報告した。
PARADIGM-HF試験の対象は、左室駆出率40%未満の症候性心不全8442例である。推算糸球体濾過率30%未満例は除外されている。これら8442例はARNi群またはACE阻害薬群にランダム化され、二重盲検法で27カ月間(中央値)観察された。
今回の解析対象はそのうち、Hb値が明らかだった8239例となった。
試験開始時点で、20.4%に貧血(WHO基準)を認めた。貧血例では非貧血例に比べ1次評価項目である「心血管系(CV)死亡・心不全入院」ハザード比(HR)が1.25の有意高値となっていた(95%信頼区間[CI]:1.12-1.40)。
なおARNiは貧血の有無を問わず、ACE阻害薬に比べ「CV死亡・心不全入院」リスクを抑制していた(交互作用P=0.478)。
さて本題のHbへの影響だが、試験開始1年後の時点ですでに、ARNi群ではACE阻害薬群に比べ低下幅が0.8g/L、有意に抑制されていた。両群の差はその後も開き、試験開始36カ月後のARNi群における低下抑制幅は2.0g/Lまで増えていた。
同様に新規貧血も、ARNi群で有意に抑制されていた。試験開始1年後で発生率は「11.4% vs. 15.6%」、発生率比は0.74(95%CI:0.64-0.85)の有意低値だった。2年後でも発生率比は0.84(95%CI:0.71-0.98)と有意低値が維持されていた。
両群におけるHb低下幅の差をもたらした要因をCurtain氏らは、ネプリライシン阻害作用の有無にあると考えている。
そしてネプリライシン阻害がHb低下を抑制する機序として「サブスタンスP増加」「抗炎症作用」「利尿作用」の可能性を挙げていた。
PARADIGM-HF試験はNovartisからの資金提供を受けて実施された。