心血管系(CV)疾患を合併する2型糖尿病(DM)例や長期罹患2型DM例では、トリグリセライド(TG)濃度上昇に伴うCVイベントリスク増が報告されている[Ye X, et al. 2019]。一方、DM例のCVイベント抑制にはスタチンが有用だと明らかになり、多くの2型DM例が早期からスタチンを服用するようになった。そのような状況下でTGは、特に早期2型DM例のCVリスクにどのような影響を与えているのか―。この点をめぐる興味深い報告が7月26日、Cardiovascular Diabetology誌に掲載された。高TG血症を呈する例は多くなかったものの、「TG<100mg/dL」の時点からTG値上昇に伴うCVイベントリスク増加が観察された。報告者はデンマーク ・オーフス大学のFrederik Pagh Bredahl Kristensen氏ら。
同氏らが解析対象としたのは、デンマークに在住の診断・加療開始から1年以内で血管系疾患既往がなく、すでにスタチンを服用していた2型DM患者2万7080例である。1型DMの混在を避けるため30歳超に限った。
年齢中央値は63歳、53%が男性だった。
HbA1cは「≦6.9%」が79%、「7.0~7.9%」が15%、LDL-Cも「<70mg/dL」が32%、「70~100mg/dL」が43%と、いずれも比較的良好に管理されていた。
一方、TG値は「<89mg/dL」が17%、「90~168mg/dL」は最多で52%、次いで「169~257mg/dL」が20%、そして「>257mg/dL」は11%だった。これらはスタチン服用下での数値である。
これらを6.7年(中央値)観察し、観察開始時TG値とCVイベント発生リスクの関係を検討した。
その結果、11.0/1000人年に「CV死亡・心筋梗塞・脳梗塞」(MACE)が発生した。
観察開始時TG値別に諸因子補正後のMACEハザード比(HR)を見ると、「<89mg/dL」群に比べて「90~168mg/dL」群ですでに1.14(95%信頼区間[CI]:1.00-1.29)の上昇傾向を認め、「169~257mg/dL」群では1.30(1.12-1.51)の有意高値となっていた。
TG値を連続変数として観察するとこのMACEリスク上昇は、「TG値>89mg/dL」の時点ですでに始まっていた。
またTG値上昇に伴うリスク増加が特に著明だったのは、心筋梗塞である。「<89mg/dL」群 に比べ「90~168mg/dL」群ですでにHRは1.35(1.06-1.71)の有意高値となっていた。
さらにこの心筋梗塞リスクは、観察開始時TG値「89mg/dL」よりも相当低い時点から、上昇し始めていた。
欧州動脈硬化学会のコンセンサスステートメントではTG値「<100mg/dL」を「至適」、「100~150mg/dL」を「境界型」と分類しているが[Ginsberg HN, et al. 2021]、それよりも低値からCV疾患リスクが高まっていた形であり、Kristensen氏らは「臨床現場におけるTG値解釈に重要」なデータだと記している。
ただし同氏らはTG値上昇をレムナント・コレステロール増加のマーカーと考えており、このような結果が得られたとはいえ、TGそのものを低下させる治療が転帰を改善するとは考えていないようだ。
同氏らによる結論には「高TGは早期2型DM例における残存CVリスクのマーカーであり、CVイベント予防に向けたさらなる脂質低下治療の適応を考えるのに用い得るだろう」と記されている。
本研究には開示すべき利益相反はない模様である。