上皮成長因子(EGF)は生検トランスクリプトーム駆動型アプローチにより慢性腎臓病進展予知因子であると報告されて以来[Ju W, et al. 2015]、腎疾患との関連が注目され、その後「尿中EGF/Cr比」低値が2型糖尿病(DM)例腎機能低下の予知/危険因子であることも明らかになった[Betz BB, et al. 2016]。
オランダ・フローニンゲン大学のTaha Sen氏らは今回、SGLT2阻害薬による腎保護作用の一部がこのEGF発現増強を介している可能性を、Kidney International誌8月3日掲載論文で報告した。3部からなる検討を紹介したい。
最初の検討で解析対象となったのは、CANVAS試験参加4300例中、試験開始時の血液と尿検体が保管されていた3521例である。CANVAS試験は心血管系高リスク2型DMを、SGLT2阻害薬群とプラセボ群にランダム化した二重盲検試験である。
さて今回の解析では中央値6.1年間の観察期間中、3.8%が腎イベントを来した。腎イベントの内訳は「eGFRの40%以上低下持続、eGFR<15mL/分/1.73m2、要透析・腎移植、腎疾患関連死」である。
そして観察開始時の「尿中EGF/Cr比」はこれら腎イベントリスクと有意に逆相関していた。すなわち「尿中EGF/Cr比」2倍高値に伴いハザード比(HR)は0.88の有意低値となっていた(95%信頼区間[CI]:0.78-0.99)。
次の解析も対象は同じくCANVAS試験参加例だが、試験開始時と52週間後の血液と尿検体が保管されていた2692例に限られた。試験開始後1年間に腎イベントを来した15例は除外されている。
これらのうち4.1%が、観察開始1年後以降に腎イベントを来した。
諸因子補正後、試験開始後1年間における「尿中EGF/Cr比」はやはり、腎イベントリスクと逆相関を示した。「尿中EGF/Cr比」2倍増加に伴う腎イベントHRは0.79(95%CI:0.72-0.85)だった。
さらに、SGLT2阻害薬群では「尿中EGF/Cr比」が、プラセボ群に比べ7.3%、有意に増加していた。
本検討の対象は、糖尿病性腎臓病高リスク若年2型DM 16例(うち10例がSGLT2阻害薬服用)から採取した腎生検サンプル、また別研究(NCT04074668)で提供された健常対照者6名(SGLT2阻害薬非服用)の腎生検サンプルである。
遠位尿細管直部のEGF mRNA発現を検討した。
その結果、SGLT2阻害薬「非」服用2型DM例サンプルでは健常対照に比べ、EGF mRNA発現が減弱していたのに対し、SGLT2阻害薬服用2型DM例では逆に、健常対照よりも発現が増強していた。
CANVAS試験はJanssen Research & Development, LLCから資金提供を受けて実施された。また本研究はEU当局からの資金提供を受けた。