SGLT2阻害薬は慢性心不全(HF)例のHF入院を抑制するが、その機序は明らかでない。しかし少なくとも器質的な改善作用は小さいのかもしれない。長期服薬継続後でも服薬中止により直後から、服薬開始時の改善を逆回しするような増悪が観察されたためである。8月25日からアムステルダム(オランダ)で開催された欧州心臓病学会(ESC)学術集会において、RCT"EMPEROR"2試験の併合解析としてMilton Packer氏(ベイラー大学・米国)が報告した。
今回の解析対象は、EMPEROR"Reduced"(HFrEF対象)、"Preserved"(HFmr/pEF対象)に参加した増悪高リスクの症候性心不全9178例中、試験終了まで残っていた6799例のうち、終了に伴う試験薬服用中止の30日後再評価に応じた3981例である(SGLT2阻害薬群:1961例、プラセボ群:2020例)。
「観察研究と異なり『薬剤を服用できなくなった集団』ではない。そのため『服薬中止を余儀なくされた要因』による交絡を受けることなく服薬中止の影響を観察できる」とPacker氏は述べている。
両群の背景因子だが、年齢、性別、左室駆出率、NYHA分類は両群間で有意差を認めなかった。
これら3981例を対象に、試験薬中止30日後の諸指標変化を調べ、試験開始後30日間の変化と比較した。
本解析は試験設計時から予定されていたもので、これらの比較終了まで二重盲検は維持されている。
その結果、まず両試験の1次評価項目だった「CV死亡・HF入院」だが、プラセボ群では服用中止30日後も中止前に比べハザード比(HR)に有意な変動を認めなかったのに対し(1.12、95%信頼区間[CI]:0.76-1.66)、SGLT2阻害薬群では服薬中止後、有意に増加していた(同1.75、1.20-2.54)。特に「HF入院」増加が著明だった。
この結果はHFrEF、HFmr/pEFに分けて解析しても同様だった。
プラセボ群との比較においてもSGLT2阻害薬群の「CV死亡・HF入院」HRは、服薬中止前90日間の有意低値(0.76、95%CI:0.60-0.96)から中止後は増加傾向に転じた(同1.18、0.78-1.80)。
この群間差はさらに、経時的な拡大が認められた。
次にKCCQ-CSSを見ると服用中止30日後、SGLT2阻害薬群ではプラセボ群に比べ1.6ポイント、有意に増悪していた。同じ3981例の試験開始30日後データでは、SGLT2阻害薬群のほうが1.3ポイントの有意高値となっており、SGLT2阻害薬服用中止後は、服用開始直後の改善作用を鏡に映したかのごとく増悪した形となった。
SGLT2阻害薬群におけるこの服薬中止後「鏡面対称的増悪」はKCCQ-CSSに限らず、「NT-proBNP」「収縮期血圧」「血中ヘモグロビン濃度」「ヘマトクリット」「体重」「尿酸値」でも同様に認められた。
一方、SGLT2阻害薬開始後に減少した「バイカーボネート」(近位尿細管吸収マーカー)と「推算糸球体濾過率」(尿細管糸球体フィードバック機構正常化の指標)は逆に、SGLT2阻害薬中止後は試験開始直後に比べ鏡面対称的に低下した。
この結果からPacker氏は以下のように考察した。
1)SGLT2阻害薬は長期服用後も、服用開始時と同様に作用している(試験期間中央値は"Reduced"試験が16カ月間、"Preserved"試験は26.2カ月間)。治療抵抗性は生じていない。
2)SGLT2阻害薬は代償的な抗Na利尿、抗水利尿作用を引き起こし、服薬中止直後はこの代償作用が前面に出るためHFが増悪するのではないか。
3)30日間という短期間であってもSGLT2阻害薬を中止するとHF例の「CV死亡・HF入院」リスクは増加する(ので注意が必要)。
本研究はBoehringer IngelheimとEli Lilly & Companyから資金提供を受けた。
また報告と同時に論文がCirculation誌ウェブサイトで公開された。