抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome :APS)は,自己免疫血栓症および自己免疫妊娠合併症であり,抗リン脂質抗体が存在する患者に血栓症や妊娠合併症が起こればAPSと定義する。典型的なAPSは全身性エリテマトーデスの一部分症として発症することが多いが,単独でも発症する(原発性APS)。
日本人APSの血栓症で多いのは,脳梗塞,深部静脈血栓症,肺塞栓症の順であり,心筋梗塞は少ない。APSの妊娠合併症を定義するのは不育症であり,通常の流産が胎盤形成以前の妊娠初期に圧倒的に多いことに対して,APS患者の流産はむしろ妊娠中・後期によく起こる。
これらの臨床症状があり,抗リン脂質抗体(IgGまたはIgM型抗カルジオリピン抗体,IgGまたはIgM型抗β2-グリコプロテインI抗体,ループスアンチコアグラント)が検出されれば,APSと診断する。なお,上記カッコ内の前2者は本質的に同じものである。
抗カルジオリピン抗体と抗β2-グリコプロテインI抗体はいくつかの検査法があり,特定疾患の診断基準や分類基準ではELISA法に限定されているが,他の固相化法でも検出力におおむね遜色はなく,蛍光発光法が日常診療に用いられる。抗リン脂質抗体パネルという検査で,固相化法の抗リン脂質抗体を同時に測定することも可能である。
動脈血栓症,静脈血栓症とも,急性期の治療については他の原因による血栓症の急性期に準じて治療を行う。すなわち,ヘパリンや抗トロンビン薬による急性血栓の進展の抑制,病態によっては線溶療法が行われる。同時に,急性血栓の合併症対策(脳梗塞時の脳浮腫の予防など)が必要である。
APSは血栓症の再発予防が治療上の重要な点である(維持療法)。静脈血栓で発症したAPSは静脈血栓で,また動脈血栓で発症したAPSは動脈血栓で再発することが圧倒的に多いため,それぞれの病態に合った治療指針をとる。ステロイドや免疫抑制薬の効果は実証されておらず,通常は行われない。
流産の機序も血栓形成が関与していると考えられており,抗血栓療法で生児が得られることがある。アスピリンとヘパリンが基本である。ヘパリンは胎盤局所での補体活性化を抑制するとされる。
残り883文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する