臨床試験はEBMの基礎だが、今日、多くは当該論文と利害関係のある私企業から資金提供を受けて実施されている。ではそのような資金提供は臨床試験の結果に影響を与えているのか―。その点を検討した大規模な横断研究が、ローマ・サピエンツァ大学(イタリア)のLeonardo M. Siena氏らにより11月14日、JAMA Network Open誌で報告された。
引用数トップ600研究中8割弱は関連企業から資金提供を受け、資金提供試験ではスポンサーに有益な結論を報告するものが多かった。
今回、解析対象とされたのは、2019年以降に報告された臨床試験中、他論文による引用数が多いトップ600本である。
試験の登録例数中央値は415例、78.0%がランダム化比較試験だったが、対照群のない単群観察研究も20.8%を占めた。
掲載誌はNEJMが最多の36.3%、次いでLancetの12.8%と総合医学誌が続くが、3、4位は悪性腫瘍専門誌であるLancet Oncol(8.3%)、J Clin Oncol(6.8%)だった。
そして領域別に見るとやはり悪性腫瘍を対象とした試験が半数近くを占め(43.3%)、次いで感染症(19.8%)、循環器疾患(10.0%)だった。
これら600試験を対象に、私企業による資金提供(スポンサー)の有無などと試験の結論(スポンサーに有益か否か)の関係を調べた。
・企業の関与
600試験中68.2%が、企業からの資金提供を受けていた(共同スポンサー)。うち74.1%(全体の50.5%)は、企業が唯一の資金提供者だった(単独スポンサー)。
また600試験論文中59.0%では、資金提供企業従業員が筆者として名を連ねていた(スポンサー著者)。同様に20.8%の論文ではデータの統計解析をスポンサー企業がもっぱら担当していた。「一部協力」まで含めると46.6%の研究で、統計解析にスポンサー企業が関与していた。
・企業資金提供の有無と結果
企業「単独スポンサー」の臨床試験(303報)では、92.1%が「スポンサーに有益な結果」を報告していた。同様に企業「共同スポンサー」試験でも80.1%が「スポンサー有益結果」となっていた。
さらに「単独スポンサー」では「共同スポンサー」に比べても、「スポンサー有益結果」のオッズ比(OR)が2.9と有意に高くなっていた(95%信頼区間[CI]:1.5-5.4)。
・スポンサー著者の有無と結果
同様に、「スポンサー著者」を含む論文では「スポンサー有益結果」を報告する論文が報告論文中の91.5%を占め、「スポンサー著者」のいない論文(78.8%)に比べ、ORは2.9の有意高値だった(95%CI:1.5-5.6)。
・統計解析へのスポンサー関与と結果
一方、統計解析へのスポンサー関与の有無は、「スポンサー有益結果」の頻度と相関していなかった。
Siena氏らはこの結果がただちに「スポンサーによるバイアス」の存在を証明するものではないとしながらも、
1)試験生データへの第三者アクセスが制限されている
2)公表される試験プロトコルは最終版のみが多い(変遷が不明)
3)(その結果として?)統計解析方法に不可解な点が生ずる
などを問題点として挙げている。
これらを踏まえ同氏は、試験生データと初版からのプロトコル文書の迅速な公開が、影響力のある臨床試験の信頼を高めるのに必須だと考えているようだ。