アミロイドーシスとは,βシート構造(蛋白質の直鎖状の部分が2本以上隣り合って並び,水素結合で形成された平面構造)を豊富に持つ可溶性の蛋白質が,何らかの機転により線維構造を持つ特異な蛋白質である不溶性のアミロイド線維に変化し,全身性または局所性に細胞外沈着することにより臓器障害が引き起こされる疾患である。アミロイドーシスの多くは全身性疾患であり,中でも消化管は心臓・腎臓と並び,最も侵されやすい臓器である。特に十二指腸(小腸)は消化管の中でもその沈着が最も高度な部位で,病変をきたしやすい。
消化管アミロイドーシスの約80%が全身性病変に伴うもので,20%は消化管に限局性であったと報告されている。アミロイド蛋白は現在36種類同定されており,消化管に沈着が認められたものとしてはAA型,AL型,Aβ2M型,ATTR型の4種で,AA型が最も多く,AL型がこれについでいる。AA型は血清急性期反応物質のアミロイドAにより構成され,関節リウマチ(RA)などの慢性炎症性疾患や感染症などに随伴する二次性である。AA型の約90%はRAに続発し,RAの約5%に認められる。AL型は免疫グロブリンL鎖で構成されるアミロイドで,多くは骨髄腫やマクログロブリン血症などに随伴し,従来,原発性全身性アミロイドーシスと呼ばれている。Aβ2M型はβ2ミクログロブリン由来のアミロイドで長期経過の腎不全患者に認められる。ATTR型はトランスサイレチンを前駆物質とし,主に心臓,靱帯,腱鞘膜に沈着する。
全身性のアミロイドーシスに伴う一般的な臨床像としては,原因不明の腎障害,心筋症,ニューロパチー,消化管障害,巨大舌や関節症が挙げられる。そして,アミロイドーシスに伴う胃腸障害としては,粘膜浸潤または神経筋浸潤のいずれかから生じ,病態としては①消化管出血,②吸収不良症候群,③蛋白漏出性胃腸症,④慢性胃腸運動障害を呈し,臨床症状としては,体重減少,下痢,下血/血便,腹痛,腹部膨満,吸収不良,胃食道逆流症などが一般的である。アミロイドーシスの診断はアミロイド沈着の確認で確定するが,アミロイド蛋白の種類や沈着部位により,臨床像や臨床的な対応が異なるため,その病理学的な同定も必要となる。
AA型アミロイド蛋白は,消化管において粘膜固有層と粘膜下層の血管壁に沈着親和性が高く,粘膜表層の絨毛構造に沈着の程度に応じた形態学的な変化が惹起される。沈着の程度に応じ,慢性下痢,吸収不良,粘膜脆弱化に伴う出血を呈する。粘膜浸潤の好発部位は,順に十二指腸の下行脚,胃と結腸直腸,食道とされている。X線造影や内視鏡検査では,Kerckring皺襞の鈍化・不明瞭化・微細顆粒状隆起を認め,沈着の高度化に伴い,びらん・潰瘍形成や易出血性変化も現れる。一方,AL型アミロイド蛋白は粘膜筋板と粘膜下層,固有筋層に塊状沈着を生じ,病気の進行に伴い小腸では蠕動運動が低下し,終末期には麻痺性イレウス様の慢性偽性腸閉塞を呈する。画像検査では管腔の拡張,Kerckring襞の肥厚や多発性の粘膜下腫瘤様の小隆起などが特に十二指腸・空腸で認められるが,びらんや潰瘍形成は認められない。
生検部位としては消化管の陽性率が高く,特に十二指腸第2部・球部,胃前庭部が推奨されている。病理検査ではアミロイド沈着が疑われた場合,congo red染色が推奨され,橙赤色の染色性と,偏光顕微鏡下による緑色の複屈折により確定される。また,アミロイド蛋白の鑑別についても,従来の過マンガン酸処理による染色性が不正確なため,特異抗体(抗免疫グロブリン軽鎖抗体)による診断が推奨されている。
全身性アミロイドーシスのスクリーニングについては,全身123I標識血清アミロイドP(SAP)シンチグラフィーが最大90%の感度を有することが報告されている。
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