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免疫チェックポイント阻害薬による内分泌代謝異常[私の治療]

No.5203 (2024年01月13日発行) P.36

岩間信太郎 (名古屋大学医学部附属病院糖尿病・内分泌内科講師)

有馬 寛 (名古屋大学大学院医学系研究科糖尿病・内分泌内科学教授)

登録日: 2024-01-11

最終更新日: 2024-01-09

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  • 免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)は,免疫機序を介して抗腫瘍作用を示すモノクローナル抗体で,抗細胞傷害性T細胞抗原(CTLA)-4抗体,抗programmed cell death-1(PD-1)抗体および抗programmed cell death-1 ligand 1(PD-L1)抗体が保険適用となっている。ICI療法では,免疫機序の関与が示唆される特徴的な有害事象〔免疫関連有害事象(immune-related adverse events:irAE)〕が発生する。irAEは全身の臓器で認められ,間質性肺炎,大腸炎,肝炎,神経・筋障害,心筋炎,内分泌機能障害などが知られている。主な内分泌代謝異常(内分泌irAE)として下垂体機能低下症,副腎皮質機能低下症,甲状腺機能異常症,副甲状腺機能低下症,1型糖尿病が挙げられ,特に下垂体と甲状腺の機能障害の頻度が高い。

    ▶診断のポイント

    内分泌irAEの症状は非特異的なものが多く,原疾患(がん)による症状と誤認されて適切に診断されていない可能性もある。ICI使用中と中止後しばらくの間は内分泌irAEの発生に注意し,疑われた際はホルモンを測定して精査を行う。ICI開始前に甲状腺自己抗体(抗サイログロブリン抗体または抗サイロペルオキシダーゼ抗体)が陽性の場合は,甲状腺irAEのリスクが高いことが示されている1)。また,抗下垂体抗体が下垂体irAEの高リスク因子である可能性が示唆されている2)

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    【下垂体機能低下症】

    ICIによる下垂体機能低下症には2つの臨床病型がある。1つは複数の下垂体前葉ホルモン分泌低下症を呈する複合型下垂体機能低下症であり,もう1つは副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)分泌低下症のみを呈するACTH単独欠損症(IAD)である。いずれの病型でもACTHの分泌障害は必発である。複合型下垂体機能低下症では,しばしばMRIにおいて下垂体の腫大が認められるが,ほとんどのIADでは下垂体の腫大は認められない。複合型下垂体機能低下症は,抗CTLA-4抗体単独または抗CTLA-4抗体と抗PD-1抗体の併用療法で認められ,IADはいずれの薬剤クラスにおいても発生する。irAEとしての中枢性尿崩症の発症はきわめて稀である。

    【原発性副腎皮質機能低下症】

    コルチゾール分泌低下症が疑われた場合,精査と並行してステロイドの投与を直ちに開始する。

    【甲状腺機能異常症】

    甲状腺中毒症と甲状腺機能低下症に分類される。抗PD-1抗体療法において発症率が高く,治療開始6カ月以内に生じることが多い。治療開始前から甲状腺自己抗体が陽性の場合は,特に注意を要する1)。ICIで認められる甲状腺中毒症はほとんど破壊性甲状腺炎であり,一過性のホルモン上昇の後,甲状腺機能低下症となる。一方,甲状腺機能亢進症はきわめて稀である。破壊性甲状腺炎による甲状腺中毒症に対し,抗甲状腺薬は無効である。

    【副甲状腺機能異常症】

    低カルシウム血症を呈するが,血清Ca値の異常は原疾患や治療に伴って生じることがあるため,血清Ca値に加え,intact PTH,25-水酸化ビタミンD,1,25-水酸化ビタミンD,血清P,Mg値,尿中Ca,Mg排泄率等を測定して鑑別を行う。

    【1型糖尿病】

    抗CTLA-4抗体よりも抗PD-1抗体による場合が多い。1型糖尿病の治療が遅れた場合は生命予後に影響することから,診断後は直ちにインスリン治療を開始する。


    上記5疾病のすべてにおいて,薬理量のグルココルチコイド投与はエビデンスがないため推奨されない3)。また,治療によって状態が安定化するまではICIの休薬を検討する。

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