市中肺炎は比較的予後良好で,耐性菌の検出頻度も低い。丁寧な問診,理学所見,血液・画像所見を参考に原因微生物を推定し,A-DROP(A:年齢,D:脱水,R:低酸素血症,O:意識変容,P:血圧低下)システム等を用いて適切に重症度評価を行うことで,エンピリック治療を選択する。原因微生物が特定できれば,標的治療に移行することも重要である。
問診の有用性として,慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者ではインフルエンザ菌やモラクセラ・カタラーリスに起因する肺炎,循環水を使用した温泉や腐葉土との接触歴はレジオネラ肺炎,sick contactはウイルス疾患(COVID-19,インフルエンザなど)や非定型肺炎(マイコプラズマ肺炎,クラミジア肺炎)等の鑑別が挙げられる。
わが国では,細菌性肺炎と非定型肺炎の臨床的鑑別が推奨されており1),60歳未満,基礎疾患が軽微,頑固な咳,胸部聴診所見が乏しい,迅速診断で原因微生物が証明されない,白血球数が1万/μL未満のうち,4項目以上合致の場合は非定型肺炎が疑われる2)。また,A-DROPシステムによる重症度評価や敗血症の有無を評価し,治療の場や治療薬を選択する1)。
比較的徐脈は非定型肺炎や薬剤熱,腫瘍熱等の非感染性疾患の鑑別に有用なことがある。また,レジオネラ肺炎においては,消化器症状や中枢神経症状が前面に出ることもあり,レジオネラスコア(男性,咳嗽なし,呼吸困難,CRP≧18mg/dL,LDH≧260U/L,Na<134mmol/Lのうち,3項目以上合致すると感度93%,特異度75%)3)や特徴的な検査所見〔電解質異常(P低値など),AST/ALT上昇,CK上昇,フェリチン上昇,血尿,蛋白尿等〕に注意する。原因微生物特定のために喀痰グラム染色・培養,尿中抗原(肺炎球菌,レジオネラ),咽頭ぬぐい液抗原検査(マイコプラズマ,SARS-CoV-2,インフルエンザウイルス)を行い,非定型病原体についてはペア血清も検討する。
A-DROPで軽症〜中等症の場合,細菌性肺炎の外来治療はβラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬高用量を,非定型肺炎が否定できない場合は,マクロライド系薬やテトラサイクリン系薬との併用を考慮する。高齢者や基礎疾患を有する症例や,βラクタマーゼ非産生アンピリシン耐性(β-lactamase negative ampicillin resistance:BLNAR)インフルエンザ菌を想定する場合は,レスピラトリーキノロン単剤も考慮するが,肺結核の合併に注意し,薬剤耐性にも配慮して乱用を避ける。
A-DROP中等症以上であれば入院治療を検討する。スルバクタム・アンピシリンやセフトリアキソンが使用されるが,非定型カバー追加の検討が必要な場合もある。
A-DROPで重症以上,あるいは敗血症性ショックが疑われる場合に集中治療室入室を検討するが,上述した治療選択肢に加えて,緑膿菌検出の既往や免疫不全,好中球減少症等の際には緑膿菌カバーも考慮し,タゾバクタム・ピペラシリンやカルバペネム系薬も選択肢とする。近年のエビデンスに鑑みて,挿管管理を要する重症肺炎においてはヒドロコルチゾンの併用を行うことも多い。
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