GLP-1受容体作動薬(GLP-1-RA)の減量作用はよく知られているが、実臨床で肥満例に用いた場合、6カ月以内に4割以上が使用を中止したとするカナダからの報告がある[Wharton S, et al. 2020]。そこで気になるのがGLP-1-RA中止後の体重や体組成の変化だ。この点に関し興味深い報告が2月19日、Lancet eClinicalMedicine誌に掲載された。運動療法と併用しておかないと、GLP-1-RA中止後1年間で、著しい体重増加と体脂肪率上昇をきたす可能性があるようだ。デンマーク・コペンハーゲン大学のSimon Birk Kjær Jensen氏らが報告した。
今回、解析対象とされたのはデンマーク在住の、糖尿病を合併しない肥満109例。60週間にわたる減量治療ランダム化比較試験"S-LiTE"を完遂した166例中、さらに1年間の観察研究に応じた参加者である。平均年齢は43歳、平均体重は96.7kg、BMI平均値は32.6kg/m2だった。
なおS-LiTE試験の概要を記すと、8週間のカロリー制限による減量成功者が「2×2」デザインで「プラセボ vs. GLP-1-RA(リラグルチド)」と「運動療法あり vs. 運動療法なし」群にランダム化され、52週間追跡された。
本検討ではさらに、52週間のランダム化介入終了後、無介入で1年間、観察が継続された。
評価項目は「体重」(1次評価項目)と「体組成」である。これらを「ランダム化介入開始時」(8週間カロリー制限減量成功時)と、「ランダム化介入終了後1年間の無介入観察期間」で比較した。つまり「カロリー制限で達成できた減量」が、「52週間のランダム化介入を中止した1年後、どれほど維持されているか」を検討した形である(ただしランダム化全例での解析ではないため体重を含め、背景因子には群間差も)。
・介入前からの体重変化
その結果、「GLP-1-RA+運動療法なし」群の体重は薬剤使用中止1年後、カロリー制限減量成功時(薬剤開始前)に比べ8.7kg、有意に増加していた。この体重増加幅は「プラセボ+運動療法なし」群(7.6kg増)、「プラセボ+運動療法あり」群(5.4kg増)より、有意ではないが大きかった。
一方、「GLP-1-RA+運動療法あり」群における体重増加幅は3.5kgであり、「プラセボ+運動療法なし」群(7.6kg増)、「プラセボ+運動療法あり」群(5.4kg増)よりも低値傾向だった。また「GLP-1-RA+運動療法なし」群に比べると5.2kgの有意低値だった。
・介入中止後1年間のリバウンド
次に体重の変化を薬剤中止後に限ると、「GLP-1-RA」群における体重増加(リバウンド)が運動療法の有無を問わず著明となった。すなわち「GLP-1-RA+運動療法なし」群では使用中止後1年間で9.6kgの増量を認め、この増加幅は「プラセボ+運動療法なし」群の中止後(1.7kg)や「プラセボ+運動療法あり」群の中止後(3.6kg)に比べて有意に大きかった。
同様に「GLP-1-RA+運動療法あり」群でも、中止後1年間の増量幅は7.1kgであり、「プラセボ+運動療法なし」群の中止後の増量幅1.7kgに比べ有意に大きく、「プラセボ+運動療法あり」軍の中止後の増量幅3.6kgに比べても大きい傾向となった。
・体脂肪率
GLP-1-RA群では体脂肪率のリバウンドも著明だった。具体的には、ランダム化介入終了から1年間の無介入観察期間における体脂肪率の変化幅は、「プラセボ+運動療法なし」群が△0.3%の減少、「プラセボ+運動療法あり」群が1.4%増加だったのに対し、「GLP-1-RA+運動療法なし」群では2.7%増加、「GLP-1-RA+運動療法あり」群でも2.3%増加で、両群は「プラセボ+運動療法なし」群に対して有意高値だった。
なお「ランダム化介入終了」時ではなく、ランダム化介入開始前(8週間カロリー制限減量成功時)と比べると、体脂肪率増加幅が大きかったのは順に「GLP-1-RA+運動療法なし」群(1.2%)、次いで「プラセボ+運動療法なし」群(0.1%)、「プラセボ+運動療法あり」群(△0.2%)、「GLP-1-RA+運動療法あり」群(△1.2%)だった。
Jensen氏らはGLP-1-RAによる減量作用が中止とともに消失する一方、運動療法による減量は中止後もある程度は持続すると考察。その理由として「運動は習慣化する」可能性を指摘している。
本研究はNovo Nordisk FoundationとHelsefonden(財団)から資金提供を受けた。