非結核性抗酸菌(non-tuberculous mycobacteria:NTM)は,水系や土壌などの環境に生息する環境常在菌である。一般的にはヒト-ヒト感染はないとされるが,感染や感染後発病に至る過程は不明な点が多い。NTMの感染巣は,呼吸器感染症としての肺NTM症が多い。肺NTM症は,難治性かつ慢性進行性であり,日本では罹患者が増加している。2023年に日本結核・非結核性抗酸菌症学会より化学療法に関する見解が改訂され1),クラリスⓇ(クラリスロマイシン)のほかジスロマックⓇ(アジスロマイシン水和物)の投与が可能となり,週3回の間欠治療も選択肢となった。また,マクロライドとエサンブトールⓇ(エタンブトール塩酸塩)の2剤療法も可能となった。
中高年のやせ型女性に多く,遷延する喀痰や咳嗽,血痰,体重減少を認めることが多い。胸部X線写真やCTでは,中葉舌区に散布性の粒状・結節影を呈する〔空洞のない結節・気管支拡張(NB)型〕。一方,喫煙男性にみられる,上葉中心に空洞陰影を呈する線維・空洞(FC)型もある。さらに近年では,空洞のある結節・気管支拡張(cavitary NB)型も報告されており,今回の見解の改訂でも記載された。
診断は,2回以上の異なった喀痰検体での培養陽性が基本である。欧米の診断基準では呼吸器あるいは全身の症状を呈することが要件のひとつであるが,わが国の診断基準には症状要件はない2)。
肺NTM症は,確定診断した場合でも,約1~2割は自然軽快することがあるため,必ずしも診断後直ちに全例に治療を開始せず,注意深い経過観察を行うこともある。一方,喀痰抗酸菌塗抹陽性例や空洞を有する例では,治療開始が推奨される1)3)。さらに,治療の忍容性や基礎疾患,画像所見の経時的推移,同定菌種などを総合的に考慮して,治療開始や治療内容を決定する。
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