胃潰瘍,十二指腸潰瘍は,胃酸などの影響で粘膜下組織より深層に及ぶ限局的組織欠損であり,両者を合わせて消化性潰瘍と呼称することもある。病理組織学的には粘膜筋板までの粘膜欠損をびらん,粘膜筋板を超える粘膜欠損を潰瘍と定義している。内視鏡診断では3~5mm以上の粘膜欠損を潰瘍と定義することが多い。
健康診断等での胃透視検査により偶然診断される場合もあるが,有症状者への診断には上部消化管内視鏡検査が必要である。内視鏡検査で潰瘍を確認した場合はHelicobacter pylori(H. pylori)感染を疑い,感染診断を行う。穿孔を疑う場合は,内視鏡検査を行う前に単純X線あるいは腹部CTで穿孔の有無を確認する。
治療方針としては,①穿孔,出血などの合併症を確認し,必要に応じて手術や止血処置等を行う,②非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)内服の確認を行い,中止の可否を検討する,③H. pylori感染の有無を確認し,陽性であれば除菌治療を行う,④H. pylori感染の陰性例や除菌治療を行わない,もしくは除菌治療の適応がない場合は抗潰瘍薬にて治療し,再発予防のために維持療法を行う。
抗潰瘍薬として,強力な酸分泌抑制作用を持つカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)や従来のプロトンポンプ阻害薬(PPI)の投与が推奨され,胃潰瘍に対しては8週間,十二指腸潰瘍に対しては6週間まで投与する。P-CABやPPIが投与できない場合は,H2受容体拮抗薬(H2RA)投与が推奨されている1)。
H. pylori感染が確認されていれば,除菌治療を行った後に抗潰瘍薬を追加するが,潰瘍治療後に除菌治療を行ってもよい。
NSAIDs服用例では,原則として薬剤を中止し,抗潰瘍薬を投与する。NSAIDs中止が不可能な場合,第一選択薬としてPPI投与が推奨されている1)。PPI以外としてプロスタグランジン製剤投与を考慮する。潰瘍治癒後の再発予防としてもPPI投与が推奨されている。
LDA服用例では可能な限り休薬せずにPPIで治療することが推奨されている。LDA服用例への再発予防にもPPI投与が推奨されている。
NSAIDs,LDA服用例での潰瘍の一次予防には保険適用がない点に注意が必要である。
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