「2型糖尿病(DM)」と「肥満症」治療に用いられるGLP-1-RAだが、「非動脈炎性虚血性視神経症」(NAION)発症リスク上昇の可能性が報告された。2型DM、過体重/肥満の1700例弱を解析した結果である。ハーバード公衆衛生大学院(米国)のJimena Tatiana Hathaway氏らが7月3日、JAMA Ophthalmology誌で報告した。
なおNAIONは「現時点で有効な治療法はないが,病眼の再発は5%以下のため失明の恐れはなく,また自然経過で約40%の症例で視力が3段階以上改善する。しかし,視野の改善は得られない」 [本誌「私の治療」'23年4月] という。
解析対象の母体は、米国在住でNAION履歴のない2型DM 710例と過体重/肥満979例の合計1689例である。ハーバード大学系単独神経眼科施設受診の1万6827例から抽出した。
これら1689例をGLP-1-RA(セマグルチド)使用例とGLP-1-RA以外の血糖降下薬使用例に分け、傾向スコアで背景因子を揃えた1016例で、その後のNAION発症リスクを比較した。
1. 2型DM例(GLP-1-RA群:169例、その他血糖降下群:234例)
・背景因子
年齢中央値は57歳、55%が女性だった。81%が高血圧を合併、10%がPDE5阻害薬を服用していた。
・NAIONリスク
36カ月間のNAION発症率はGLP-1-RAで有意に高かった(6.7 vs. 0.8%)。GLP-1-RA群におけるNAIONは使用開始後1年間で頻発し、その後はさほど増加していなかった。GLP-1-RA群の他血糖降下薬群に対するNAIONハザード比(HR)は4.28(95%信頼区間[CI]:1.62-11.29)である。
2. 過体重/肥満例(GLP-1-RA群:254例、その他血糖降下群:359例)
・背景因子
年齢中央値は46歳、76%が女性だった。併存症は高血圧が55%、2型DMが27%だった。また8%がPDE5阻害薬を服用していた。
・NAIONリスク
こちらも36カ月間のNAION発症率はGLP-1-RA群で有意に高かった(8.9 vs. 1.8%)。2型DMと同様、GLP-1-RA群におけるNAION発症は使用開始後1年で著明に多く、その後はほとんど認められなかった。GLP-1-RA群の他血糖降下薬群に対するNAIONハザード比(HR)は7.64(95%CI:2.21-26.36)である。
GLP-1-RA群でNAIONリスクが高くなった原因としてHathaway氏らは、視神経に発現するGLP-1受容体 [Hebsgaard JB, et al. 2018] を介した交感神経系亢進が関与した可能性を指摘している。
本研究は資金の一部を、非営利民間団体「失明予防研究」(Research to Prevent Blindness)から提供された。