ランダム化比較試験(RCT)では有用性のエビデンスに乏しいDPP-4阻害薬だが、それらRCTから除外されている心血管系(CV)低リスク例では腎保護作用が期待できるかもしれない。日本人データ回顧的解析の結果として東北医科薬科大学の橋本英明氏らが7月31日、Diabetes, Obesity and Metabolism誌で報告した。
解析対象の母体は、30歳以上で血糖降下薬を使用し、解析開始~半年後の間に重度腎機能低下を認めなかった7万5241例である。CVリスクの高低は問わない。健保組合、国保、後期高齢者医療制度の健診データと診療報酬請求データから該当例を抽出した。ただし糖代謝や血圧、尿検査のデータがない例は除外されている。
これら7万5241例を、まず「DPP-4阻害薬服用」群と「その他血糖降下薬使用」群に分け(「新規開始」とは限らず)、さらにeGFR「≧45mL/分/1.73m2」例と「<45 mL/分/1.73m2」例に2分した。
その上で傾向スコアを用いて背景因子をマッチの上、(1)「eGFR≧45」例では「DPP-4阻害薬」群と「その他血糖降下薬」群(1万6002例ずつ)間で「eGFR低下」を比較、また(2)「eGFR<45」例ならば「DPP-4阻害薬服用」群と「その他血糖降下薬」群(2086例ずつ)間で「末期腎不全(ESKD)移行率」をそれぞれ比較した。
「eGFR≧45mL/分/1.73m2」例
・背景因子
平均年齢は69歳、男性が60%を占めた。 糖尿病(DM)罹患期間は不明である。
比較開始時のeGFR平均値は72 mL/分/1.73m2、23%が蛋白尿陽性だった。腎保護薬はレニン・アンジオテンシン系阻害薬(RAS-i)を44%が服用、SGLT2阻害薬が12%だった。なおアルドステロン拮抗薬服用率は2%以下、GLP-1受容体作動薬はほぼ皆無だった。
・eGFR低下幅
eGFR低下幅は比較開始2年後、3年後いずれの時点でも、「DPP-4阻害薬」群で「他血糖降下薬」群に比べ有意に小さかった。
2年後:2.31 vs. 2.56 mL/分/1.73m2(△0.25)
3年後:2.75 vs. 3.41 mL/分/1.73m2(△0.66)
「eGFR<45 mL/分/1.73m2」例
・背景因子
平均年齢は77歳、60%が男性だった。DM罹患期間は不明である。
比較開始時の平均eGFRは37 mL/分/1.73m2、53%が蛋白尿陽性だった。RAS-i服用率は80%、SGLT2阻害薬が10%、アルドステロン拮抗薬が6%だった(GLP-1受容体作動薬はほぼ皆無)。
・ESKD移行率
比較開始から平均2.2年後、「DPP-4阻害薬」群では「他血糖降下薬」群に比べ、ESKD移行率は有意に低かった(1.15 vs. 2.30%)。治療必要者数は「125」となる。両群の発生率曲線は比較開始後1年を待たずに乖離を始め、その差は開き続けた。
DPP-4阻害薬による腎保護機序の一つとして橋下氏は「虚血傷害抑制」 [Vaghasiya J, et al. 2011] の可能性を挙げている。
本研究には文部科学省と大和證券財団、日本医師会からのグラントが用いられた。またバイエル薬品からは "academic support" を受けた。