体内の「水」バランスを整えるとされる漢方製剤の五苓散だが、近年、慢性心不全(HF)例におけるBNPと左室駆出率の有意改善が、ランダム化比較試験のメタ解析から報告されている[Li Z, et al. 2022]。そこで東京大学の磯貝俊明氏らは、わが国のHF実臨床データで同剤の有用性を検討した。腎機能低下例ではHF再入院抑制の可能性があるかもしれない。9月26日、Journal of Cardiology誌で報告した。
解析対象の母体は、日本でHFと診断され生存退院した43万1393例である。診療報酬全国データベースから抽出した。HF以外の重篤心疾患合併例や末期腎不全例は除外されている。また標準的HF治療薬を処方されていない例も除外された。
これら43万1393例中、退院時に五苓散を「処方」されていた1957例と、傾向スコアで背景因子をマッチさせた「非処方」7828例間で、退院後1年間のHF再入院リスク(1次評価項目)を比較した。
・背景因子
傾向スコアマッチ後集団の平均年齢は83歳、男性が48%を占めた。併存心疾患最多は心房細動(39%)、次いで冠動脈疾患(22%)だった。また60%が高血圧、29%が糖尿病、24%が脂質異常症を合併していた。利尿薬処方率はループが89%、チアジド系が8%、トルバプタンが36%である。また心保護薬の処方率はβ遮断薬、レニン・アンジオテンシン系阻害薬ともに49%、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬が46%、SGLT2阻害薬は11%、ARNiが4%だった。
・退院後1年間HF再入院
その結果、退院後1年間のHF再入院率は、五苓散「処方」群:22.1%、非処方群:21.7%で、有意差はなかった(ハザード比[HR]:1.02、95%CI:0.92-1.13)。ただし腎疾患合併例(全体の18%、1759例)に限れば、五苓散「処方」群における1年間HF再入院リスクは「非処方」群に比べ有意に低くなっていた(HR:0.77、95%CI:0.60-0.97。発生率は22.3 vs. 28.1%)。一方、腎疾患非合併例では、五苓散「処方」群における1年間HF再入院HRは1.09(95%CI:0.97-1.23)だった。
腎疾患合併例のみで、五苓散が1年間HF再入院リスクを抑制した理由として磯貝氏らは、基礎研究で示唆されている五苓散の腎保護作用[Liu IM, et al. 2009、Suenaga A, et al. 2023]が作用した可能性を挙げる。ただし腎機能低下HF例に対する有用性はさらなる検討が必要だと、慎重な姿勢も崩さなかった。
本研究自体に対する資金提供については明記がなかった。なお筆頭を含む著者2名は、日本漢方生薬製剤協会からのグラントを受けていた。