2型糖尿病治療の目標は,糖尿病細小血管合併症および動脈硬化性疾患の発症・進展を阻止することにより,健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)を維持し,健康な人と変わらない寿命を確保することにある。そのためには良好な血糖コントロール状態を維持することが必要である。わが国においては病態に基づいた糖尿病治療薬の選択が強調されているが,それによって上記の目標が達成されるか否かは,実は明らかにされていない。
なるほど病態に基づいた糖尿病治療薬の選択により,良好な血糖コントロールを維持することは可能であろう。しかし,HbA1cをはじめとする種々の血糖コントロール指標はあくまで代用アウトカム(surrogate outcome)であり,我々の目標は,動脈硬化性疾患などの真のアウトカム(true outcome)を改善することにある。良好な血糖コントロールの維持により,糖尿病細小血管合併症の発症・進展が阻止できることに疑いの余地はない。一方で,それのみでは動脈硬化性疾患の発症・進展を阻止し,健康な人と変わらない寿命を確保するには不十分なことも明らかとなっている。
ある治療法が有益か否かについての情報(エビデンス)は,真のアウトカムをエンドポイントとした臨床研究によってのみ得られる。本稿においては,これまでに得られたエビデンスを通して,メトホルミン,DPP-4阻害薬,SGLT2阻害薬の位置づけを検証する。ただし,DPP-4阻害薬およびSGLT2阻害薬のエビデンスについては,既に詳細な解説1)があるので,筆者の見解を簡単に述べるにとどめる。
UKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study)は,新規に診断された2型糖尿病患者4209人を最初に体重により層別化し,非過体重群(理想体重の120%未満)2505人を食事療法群と,SUまたはインスリン(SU/インスリン)群の2群に,また,過体重群(理想体重の120%以上)1704人(平均年齢53歳)を食事療法群,SU/インスリン群およびメトホルミン群の3群に無作為に割り付け,約10年間にわたり観察した無作為化比較試験(RCT)である。UKPDS33はメトホルミン群342人を除いた3867人を解析対象とし,UKPDS34は過体重者1704人を解析対象としている。
ここで重要な点は,無作為化が患者を体重で層別化した後で行われていることである。したがって,「UKPDS34はUKPDSのサブ解析であり,エビデンスレベルが低下する」との解釈は誤りである。その結果,すべての糖尿病関連エンドポイント〔ハザード比(HR);0.68, 95%信頼区間(CI);0.53~0.87,P=0.0023〕,心筋梗塞(HR;0.61,95%CI;0.41~0.89,P=0.01),全死亡(HR;0.64,95%CI;0.45~0.91,P=0.011)がメトホルミン群において,食事療法群と比較して有意に低下した。
一方,SU/インスリン群では,これらの臨床アウトカムに有意なリスク低下は認められなかった。さらに,メトホルミン群とSU/インスリン群の血糖降下作用は同等であったことから,メトホルミンは動脈硬化性疾患に対し血糖降下以外の作用を有することが示唆された。その作用メカニズムの詳細は現在も明らかになっていないが,1つの可能性として終末糖化産物(advanced glycation endproducts:AGEs)の前駆物質であるメチルグリオキサール(methylglyoxal)の血中濃度がメトホルミンの投与により減少することが報告されている3)。
また,その後の検討から,メトホルミンの有益性は過体重患者に限定されないことが明らかとなっている。そこで,世界の主要なガイドラインは,このエビデンスに基づいて,禁忌に該当しない限り,すべての2型糖尿病患者にメトホルミンを投与することを推奨している。
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