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日本人におけるスタチンによる糖尿病発症リスク上昇の可能性

No.4747 (2015年04月18日発行) P.56

近藤義宣 (茅ヶ崎市立病院代謝内分泌内科医長)

登録日: 2015-04-18

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

スタチン投与により糖尿病に罹患しやすくなるという海外の報告がありますが,日本人でも同様にスタチンによる糖尿病発症リスク上昇がみられるのでしょうか。スタチンの種類による違い,糖尿病患者にスタチンを投与する際の留意点なども含めて,茅ヶ崎市立病院・近藤義宣先生のご教示をお願いします。
【質問者】
後藤 温:東京女子医科大学医学部 衛生学公衆衛生学第二講座

【A】

スタチンが一次予防,二次予防にかかわらず心血管イベント抑制効果を持つことは数々の報告から示されています(文献1~3)。しかしながら,2008年のJUPITER study(文献4)の報告を筆頭に,スタチンの耐糖能悪化に関する報告が複数なされ,2011年には5つの大規模無作為化比較試験のメタ解析から,高用量スタチン加療は中用量加療と比べ糖尿病発症リスクを上昇させることが報告されました〔オッズ比1.12,95%信頼区間(CI)1.04~1.22〕(文献5)。
これらの報告を受けて,2012年2月,米国FDAはスタチンの添付文書に耐糖能悪化リスクを追記させています。また,2014年にはカナダ住民ベースのコホート研究から,高強度スタチンは低強度スタチンに比べ糖尿病新規発症リスクを有意に上昇させることが報告され(率比1.15,95%CI 1.05~1.26)(文献6),スタチンの種類によっても糖代謝に与える効果が異なることが示されています。さらに,スタチン使用者では摂取カロリーと脂質摂取の増加傾向がみられ,BMI上昇を伴うことも報告されています(文献7)。
しかしながら,これら欧米での結果は,日本の2~4倍の最大用量条件下での結果であり,比較的低用量で管理されていることの多い日本人脂質異常症患者にも当てはまるのでしょうか。日本人脂質異常症患者を対象にした,スタチンの耐糖能への影響を主要評価項目にした報告が,既にいくつかなされています。
まず,2型糖尿病患者を対象に,プラバスタチン(10mg/日)とアトルバスタチン(10mg/日)の耐糖能への影響を後ろ向きに比較した検討では,3カ月の介入の後,アトルバスタチンでのみ有意にHbA1cが上昇したことが報告されています(6.8±0.9% to 7.2±1.1%,P<0.001)(文献8)。同様の結果は少数例のクロスオーバー試験(文献9)においても報告されており,日本人においてもアトルバスタチンなどの高強度スタチンのほうが低強度スタチンと比べ,耐糖能を悪化させやすいことが示唆されています。
さらに,高強度スタチンの種類によっても耐糖能への影響が異なることもわが国から報告されています。ピタバスタチン(2mg/日)とアトルバスタチン(10mg/日)のクロスオーバー試験では,ピタバスタチンのほうが有意にHbA1cを低下させたと報告されています(-0.18,95%CI -0.34~ -0.02)(文献10)。
一方,境界型糖尿病を有する日本人を対象とした大規模臨床試験であるJ-PREDICT study(文献11,12)では,ピタバスタチンを投与しても,糖尿病発症の増加を認めなかったことが,2013年の米国糖尿病学会で報告されています(ハザード比0.82,95%CI 0.68~0.99)。
私たちの検討では,糖尿病を含む耐糖能異常患者に対する初期脂質異常症治療で,脂質管理目標に到達できなかった場合,スタチンの切り替えやスタチン倍量投与を行っても通常の糖尿病診療下であればHbA1cの悪化は認められず,スタチンによる耐糖能への影響は通常の糖尿病治療で十分カバーできることも報告しています(文献13)。
以上のように,日本人においてもスタチンが耐糖能に影響しうることが示されており,糖尿病発症リスクを有する患者では耐糖能に影響を及ぼしにくい低強度スタチン(プラバスタチン,シンバスタチン)や,高強度スタチンでも耐糖能に影響を及ぼしにくいピタバスタチンを選ぶこと,耐糖能をモニターすることなどの配慮が必要でしょう。糖尿病患者においても,脂質異常症は心血管イベントの最大のリスク因子であり(文献14),十分な管理が必要です。耐糖能に影響しやすい高強度スタチン(ロスバスタチン,アトルバスタチン)を用いる場合は,糖尿病治療調整も必要となりうることも念頭に脂質管理を行うことが必要でしょう。

【文献】


1) Cholesterol Treatment Trialists’(CTT)Col-laborators:Lancet. 2012;380(9841):581-90.
2) Marchioli R, et al:Arch Intern Med. 1996;156 (11):1158-72.
3) Nakamura H, et al:Lancet. 2006;368(9542): 1155-63.
4) Ridker PM, et al:N Engl J Med. 2008;359(21): 2195-207.
5) Preiss D, et al:JAMA. 2011;305(24):2556-64.
6) Dormuth CR, et al:BMJ. 2014;348:g3244.
7) Sugiyama T, et al:JAMA Intern Med. 2014;174 (7):1038-45.
8) Takano T, et al:J Atheroscler Thromb. 2006;13 (2):95-100.
9) Mita T, et al:Endocr J. 2007;54(3):441-7.
10) Mita T, et al:J Diabetes Investig. 2013;4(3): 297-303.
11) Yamazaki T, et al:Diabetol Int. 2011;2(3):134-40.
12) Odawara M, et al:Diabetes. 2013;62(Suppl 1A):LB17.
13) Kondo Y, et al:Endocr J. 2014;61(4):343-51.
14) Turner RC, et al:BMJ. 1998;316(7134):823-8.

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