【Q】
炎症性腸疾患に対する新規の治療薬(法)が登場して,治療の流れが変わりつつありますが,生物学的製剤の安易な使用は医療経済を圧迫すること必至です。一方,かつて治療において主役であったステロイドは悪役になってしまった感があります。とは言え,使い方次第ではまだまだ有用な薬剤であると思います。今日における炎症性腸疾患に対するステロイドの意義と,上手な使い方について,奈良県立医科大学・藤井久男先生のご教示をお願いします。
【質問者】
清水誠治:JR大阪鉄道病院消化器内科部長
【A】
最近,ステロイド(corticosteroid:CS)の副作用が強調されるあまり,CS治療を行わず,初期から生物学的製剤などのintensive therapyが行われるケースが見受けられます。炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)に対しCSが有効であるエビデンスは,1955年のTrueloveらの報告以来,数多くあり,厚生労働省「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班の治療指針や欧米のガイドラインにおいて,5-aminosalicylic acid(5-ASA)製剤についで選択するべき治療薬として位置づけられています。
CSは数多くの難治性疾患に使用されていますが,IBDにおけるCSは,野球のピッチャーにたとえると,先発およびワンポイントリリーフ投手です。
潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)は基本的に急性炎症の繰り返しであり,粘膜下層までの炎症なので,急性期をCSで乗り切れば,アザチオプリンのような中継ぎ投手に任せることができます。また,再燃時にも出番があるでしょう。寛解導入に成功しても,「再燃が心配」「少量だから」という理由でだらだら使えば,CS依存性になったり,数多いCSの副作用のどれかに遭遇することになります。ほかに有効な治療薬がないので少量のCSで維持せざるをえない膠原病などの慢性難治性疾患とは,使用法が違います。要するに,CSが悪いのではなく,使い方が悪いのです。
クローン病は炎症が慢性的に持続しやすく,全層性炎症であるため,UCに比べCSの有効性はやや低くなりますが,位置づけは変わりません。
CSは即効性で,十分なプレドニゾロン(prednisolone:PSL)用量(外来:中等症例30~40mg/日,入院:中等症~重症例1~1.5mg/kg/日)が投与されれば,効果は数日以内に症状の軽減,CRPなどの炎症指標の低下としてみられます。1週間以内に効果がみられないときは,CS抵抗性として次の手を考えるべきです。効果がみられた場合は1~2週間で漸減スケジュールに入ります。
漸減方法については決まったものがありません。用量が多い場合はいきなり2/3量くらいに減らすことが可能ですが,用量が少なくなるにつれゆっくりと減量します(5mg/2週間)。ただし,CS投与中は副腎皮質機能が抑制される(生理的分泌量はPSL 5mg/日相当)ので,CS投与期間も考慮する必要があります。半年以上の長期間投与例では,副腎皮質機能の回復を待ちながら1mg単位での減量も必要となります。
1日の投与回数については,1日1回でも効果は同じという報告がありますが,私は初期用量は1日3回にし,用量が少なくなるにつれて朝に分泌が多い生理的なリズムに合わせるように,朝の用量の配分を多くしていき,PSL 10mg/日以下では朝1回投与にしています。
UCでは漸減にPSL注腸薬が利用できます。直腸炎型,左側大腸炎型の寛解導入だけでなく,全大腸炎型でも,内服用量がPSL 10mgになれば,PSL 20mg注腸に切り替え,連日投与から5-ASA注腸との隔日交互投与,5-ASA注腸連日投与に移行すると,局所製剤併用療法の導入もうまくいきます。骨粗鬆症,消化性潰瘍,日和見感染症など副作用予防策については詳述しませんが,用量,投与期間に応じて対策が必要です。