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超高齢者の臨床薬理学的特徴

No.4774 (2015年10月24日発行) P.61

植田真一郎 (琉球大学大学院医学研究科臨床薬理学教授)

登録日: 2015-10-24

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

現在,高齢化率が4割近い地域の総合診療医として85歳以上の超高齢者(老年医学での定義)を多く診療しています。高齢者の特徴として,薬物の代謝や腎排泄機能の低下のほか,担癌率の上昇や認知症など合併症の増加に伴う多剤服用とその影響が知られていますが,同年代でも非常に個人差が大きく,実際の医療現場においては一般論はあまり通用しないという印象があります。
超高齢者の臨床薬理学的特徴についてご教示下さい。また,超高齢者における臨床薬理学や医学研究について参考となる文献などがあれば,併せてご紹介下さい。琉球大学・植田真一郎先生にお願いします。
【質問者】
森本卓哉:みえ記念病院(大分県豊後大野市) 内科/副院長

【A】

ご指摘のように,超高齢者における薬剤の適切な使用は,すべての診療科において重要な問題です。65歳以上では薬剤有害反応は死因のトップ5の1つであり,その医療費はアルツハイマー病,がん,心血管病に匹敵すると言われます。
薬物治療の目的は安全にその患者さんの予後を改善することにありますが,高齢者でこれを実現するにはいくつか困難な点があります。それは既に指摘されているように,加齢による薬物動態の変化,合併症や多彩な症状の存在による多剤併用に加え,腎機能低下,転倒や意識障害,認知機能低下,低血糖などが薬剤と関連して生じやすいこと,超高齢者は臨床試験の対象者となることが少なく,どんなに質の高い試験でも結果が適用できない可能性,臨床試験で評価された指標やアウトカムの改善が必ずしも高齢者の予後改善や生活の質の改善を保証しないことなどが理由です。
薬物代謝についても,腎機能の低下はクレアチニンクリアランス(creatinine clearance:Ccr)の低下としてとらえやすく,それを指標とした用量の調節が可能であるものの,吸収(消化管の機能低下や合併症の存在)や分布(分布容量の変化や蛋白結合の問題),代謝の変化には指標がなく,用量や併用薬の調節は試行錯誤になることもあります。
また,合併症の存在により,それぞれの疾患には適切な薬剤の選択であったとしても,薬剤が多くなると相互作用の問題が生じやすくなります。痛み,不眠といった症状の訴えも多いのですが,高齢者では非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)による腎機能の低下,心血管リスクの増大,消化管出血が生じやすく,よく知られたベンゾジアゼピン(benzodiazepine:BZD)のみならず非定型抗精神病薬も,さらに最近の知見では降圧薬も転倒のリスクとなります。糖尿病薬,特にスルホニルウレア(sulfonylurea:SU)による低血糖はしばしば致死的です。
そもそも高齢者は臨床試験から除外されることが多く,有効性が証明された薬剤でも超高齢者での検討は行っていないこともありますし,80歳以上の高血圧患者を対象としたHYVET試験(Hypertension in the Very Elderly Trial)のように,健康な高齢者(この試験では体位性の血圧変動のみられない患者さん)を対象とした臨床試験も多くあります。ツールとしてのEBMを用いることが容易ではありません。
これらの点に鑑みて,超高齢者の薬物療法の検討にあたっては,薬剤を予後の改善と安全性,用量・用法の点から慎重にレビューすることが必要です。高齢者で評価されているか,高齢者に適用できるアウトカムか,結果のサブグループ解析で年齢に関連せず一貫した効果が認められるか,など,臨床試験の批判的吟味を行い,添付文書やインタビューフォームによる薬物動態/薬力学の基本的な情報を収集し,承認審査資料での高齢者や腎機能低下患者での臨床薬理試験の結果などを参考にします。相互作用についてはStockley(“Stock-ley’s Drug Interactions”)での検索が推奨されます。安全性に関しては承認後の臨床試験や観察研究で評価されていることが多く,情報の収集は容易ではありませんが,市販直後調査の結果や安全性情報に注意します。投与後は問診や理学所見による注意深い観察が重要であることは言うまでもありません。
高齢者は多様であり,一律に年齢で薬物療法を論じることは意義が少なく,Beers Criteriaのようなものも多少は参考になりますが,絶対視することは勧められません(誌面の都合上,理由は略します)。

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