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花粉飛散時期に咳嗽を訴える非喘息患者の治療薬選択

No.4776 (2015年11月07日発行) P.60

新実彰男 (名古屋市立大学大学院医学研究科 呼吸器・免疫アレルギー内科学教授)

登録日: 2015-11-07

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

気管支喘息や咳喘息の病歴がないにもかかわらず,毎年,花粉飛散時期に咳嗽を訴える患者さんのマネジメントに困ることがあります。私自身は,花粉症による後鼻漏,下気道への花粉の吸入,上気道炎症による下気道炎症の誘発などの可能性を考えて,可能な限り「耳鼻咽喉科紹介」や「気道過敏性試験」を実施しますが,時間のかかる診療や検査を希望しない患者さんも少なくありません。どのように効率良く病態を鑑別して,治療薬を選択していらっしゃるのでしょうか。
名古屋市立大学・新実彰男先生のご教示をお願いします。
【質問者】
中村陽一:横浜市立みなと赤十字病院アレルギーセンター センター長

【A】

ご指摘のような症例は私もしばしば経験しますが,鑑別の究極のポイントはその患者さんに既往歴では明らかではない喘息がはたして存在するか否か,の一点に尽きると考えます。明らかな喘鳴・呼吸困難のみられる喘息の鑑別に専門医が難渋することはないので,ここでは「咳喘息があるのか否か」にポイントを絞ります。
結論は,(1)花粉症のみでは説明がしにくい中等症以上の呼気中NO高値(約50~60ppb以上),(2)睡眠に支障をきたすような夜間優位の咳,(3)スパイロメトリーで花粉非飛散時期と比較して,たとえ正常範囲内でも相対的に気流閉塞が悪化(FEV1 が>12%かつ>200mL低下,フローボリューム曲線の下降脚が明らかに下へ凸に変化),(4)短時間作用性吸入β2 刺激薬が咳に対して有効(気道可逆性試験時の確認でも可),のいずれかが認められれば,咳喘息として吸入ステロイド薬(inhaled corticosteroid:ICS),ICS/長時間作用性吸入β2 刺激薬(long-actingβ2 agonist:LABA)配合剤やロイコトリエン受容体拮抗薬(leukotriene receptor antagonist:LTRA)の併用による治療を考慮してよいと考えます(喘鳴があればもちろん喘息として咳喘息と同様に治療します)。咳の程度が強ければ短期経口ステロイドの併用を考慮します。
一方,喘息や咳喘息の合併のない,いわゆる「花粉症の咳」は,(1)後鼻漏を主体とする狭義の鼻炎由来の咳と,(2)中気道~中枢下気道(喉頭・気管・主気管支レベル)の炎症および咳受容体感受性亢進を主体とするアトピー咳嗽~喉頭アレルギーに大別でき,治療は前者なら経口および点鼻ヒスタミンH1 拮抗薬,点鼻ステロイド(以前は点鼻抗コリン薬も併用),LTRA,後者なら経口ヒスタミンH1 拮抗薬やICSを中心に行います。花粉感作の確認は内科医でも容易にできますし,咳喘息に花粉症の合併があっても上記(1)の治療を加える程度です。したがって,耳鼻科医による花粉症合併の診断は必ずしも必要はないと考えます。また,アトピー咳嗽では特に増悪期(感作花粉の飛散期)にはしばしば気道過敏性亢進を認めるため(文献1),気道過敏性試験の有用性は限られるものと判断します。

【文献】


1) 新実彰男:気管支学. 1992;14(8):827-30.

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