【Q】
患者の増加に伴い,クローン病や潰瘍性大腸炎を治療する機会が増えました。欧米では,寛解維持療法として免疫調整薬であるチオプリン製剤が有効であることが証明されており,私自身も患者に積極的に使用しています。ところが,日本人と欧米人では代謝酵素活性が異なるためか,副作用が多いと感じています。現在,チオプリン製剤としてアザチオプリン(azathioprine:AZA)と6-メルカプトプリン(6-mercaptopurine:6-MP)の2種類がありますが,一方で副作用がある場合,他方は使用できないのでしょうか。また,使いわけのコツがあれば教えて下さい。長崎大学・竹島史直先生のご教示をお願いします。
【質問者】
松本主之:岩手医科大学消化器内科教授
【A】
チオプリン製剤には,AZAと6-MPがあり,AZAは内服後,グルタチオンの存在下に非酵素的に代謝され,6-MPとなります(図1)。これらは,炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)の寛解維持療法において大変重要な役割を果たします。一方,ご指摘のように,これらの薬剤は副作用が多い(10~30%)ことでも知られ,使用においては本剤の特徴を熟知し,十分注意を払う必要があります。
チオプリン製剤の短期的な副作用には,用量非依存性でアレルギー機序により生じるものと,用量依存性に生じるものがあります。いずれも投与初期3~4週以内に生じるため,治療開始後1カ月間は,1週ごとの診察と採血とによるモニタリングが必要になります。
アレルギー機序により生じる副作用には,発熱,筋肉痛,関節痛,発疹,嘔気・嘔吐,肝機能障害,膵炎などがあり,この中には,AZAに存在し,6-MPにはないイミダゾール環に起因する症状があります。そのような症例では,AZAを6-MPに変更することで症状が消失し,安全に使用できる場合がありますので,AZA不耐の患者においては,チオプリン製剤のスイッチは考慮すべき治療法と考えます。膵炎も同様にAZAから6-MPへのスイッチにより使用可能となる場合がありますが,逆に再投与により重症化することもあるため,チオプリン製剤の再投与には厳重な注意が必要です。
用量依存性に生じる副作用には,脱毛,骨髄抑制,肝機能障害などがあります。本剤の至適量は,人種差,個人差が著しく,これはチオプリン製剤の代謝に関わるthiopurine S-methyltransferase(TPMT)活性の違いや同時に服用している内服薬の影響を受けやすいためです。したがって,投与開始時には,AZAであれば25mg,6-MPであれば10~15mg程度の少量から開始し,副作用のないことを確認しながら増量するほうが安全です。副作用がみられた場合でも,薬剤の一次的な中止と減量による再投与が可能な場合も多く経験しますので,きめ細かい用量調節が重要となります。
使いわけに関しては,IBDに対して保険適用となる薬剤はAZAのみですから,AZAを第一選択としています。その他の薬剤でアレルギーを示した症例や低体重の患者では,少量投与が可能なことから,当初より6-MPを使用しています。
▼ Lees CW, et al:Aliment Pharmacol Ther. 2008;27(3):220-7.
▼ McLean LP, et al:Expert Rev Gastroenterol Hepatol. 2014;8(3):223-40.