【Q】
炎症性腸疾患の治療で,TNF-α阻害薬を中心とした生物学的製剤の登場は患者の生活史を変えたと言われるほど強いインパクトを与えました。一方で,わが国では医療費補助が受けられるために使用症例が非常に多く,適正使用や医療経済上も問題があると指摘されています。近年,TNF-α阻害薬のひとつであるインフリキシマブのバイオシミラーが登場して,炎症性腸疾患にも使用することが可能になり,より安価であることからも注目されています。本薬剤の特徴,効能および課題について,東京医科歯科大学・渡辺 守先生のご教示をお願いします。
【質問者】
緒方晴彦:慶應義塾大学医学部内視鏡センター教授
【A】
わが国においては,生物学的製剤である抗TNF-α抗体製剤として,クローン病に対して2002年1月にインフリキシマブ,10年10月にはアダリムマブが保険適用となりました。また,潰瘍性大腸炎では10年6月にインフリキシマブ,13年6月にはアダリムマブが使用可能になりました。抗TNF-α抗体製剤の登場により,炎症性腸疾患の治療成績は大幅に向上し,病気の自然史を変えることができるほどのインパクトを,炎症性腸疾患の治療にもたらしました。その一方で,わが国ではクローン病では約40%の患者に抗TNF-α抗体製剤が用いられるなど,特定疾患医療費助成制度に支えられた安易な抗TNF-α抗体製剤の使用が問題と考えます。
バイオシミラーは,先行品と同じアミノ酸配列を持つバイオ後続品です。12年の韓国での承認以降,13年には欧州医薬品庁(European Medicine Agency:EMA)でも承認されていましたが,14年11月にわが国初の抗体製剤バイオシミラーであるインフリキシマブBSが発売されました。バイオシミラーは,リウマチ患者を対象とした経済影響分析にてインフリキシマブBSが医療費削減につながるとの報告(文献1) ,炎症性腸疾患患者を対象にした安全性・有効性に関する報告(文献2~4)と併せ,医療費削減に貢献することが期待されています。
他方,アミノ酸配列が同一であっても,化学物質であるジェネリック医薬品とは異なり,製造法の違いなどが免疫原性や抗体の糖鎖修飾に影響を与える可能性があります。こういった違いが,安全性・有効性にどの程度影響を与えるのかは,まだわかっていません。実際に,炎症性腸疾患に関しては,日本での有効性を確認したデータはありませんので,製造販売後に安全性・有効性,その他の適正使用情報を把握するために特定使用成績調査が行われています。今後,バイオシミラーの有効性・安全性を評価しつつ,医療経済的な観点も考慮し,バイオシミラーの適正使用について議論していく必要があると考えています。
1) Brodszky V, et al:Eur J Health Econ. 2014;15(Suppl 1):S65-71.
2) Kang YS, et al:Dig Dis Sci. 2015;60(4):951-6.
3) Jung YS, et al:J Gastroenterol Hepatol. 2015;30(12):1705-12.
4) Farkas K, et al:Expert Opin Biol Ther. 2015;15(9):1257-62.