【Q】
慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)は治療できる気流閉塞性疾患と定義されていますが,その治療薬は限られ,臨床家に明らかな効果を実感させた薬剤はtiotropium bromideからであると言っても過言ではないと思います。これは,COPDがβ2刺激薬より抗コリン薬で気道拡張反応性が高い疾患であるという理由よりも,初めて臨床的な改善を感じることができるだけのFEV1の上昇と残気量(RV)の減少をもたらし,いわゆるpharmacologic lung vol-ume reductionを実現したためだと思います。臨床の現場では,一般医家を含めて,「効果を実感する治療」を開始しない限り,COPD患者の治療継続は難しいと考えます。呼吸困難が軽減して初めて患者が「呼吸困難感の存在」を実感できるのであって,治療を介さなければ自覚は明らかではありません。
COPDは,呼吸困難を代償するために日常生活動作を制限し,歩行数が減少します。身体活動性の低下とは,呼吸困難の悪化によるfrailtyをみていると考えます。したがって,COPD治療のfirst touchは,「効果を確実に実感できる」ようにすることが最重要であると考えます。近年,種々の配合剤が使用可能となったことから,COPD吸入療法の第一選択は相加効果が知られる長時間作用性抗コリン薬(long-acting muscarinic antagonist:LAMA)と長時間作用性β2刺激薬(long-acting β2 agonist:LABA)の配合剤から開始するべきではないかと思いますが,いかがでしょうか。専門家の立場から,京都大学・室 繁郎先生にご回答をお願いします。
懸念される心合併症については,欧米に比べ日本では少ないので,80歳以上の老年者でなければ,LAMA/LABA配合剤から始め,その後,より少ない薬剤でも同等の効果を発揮する単剤の薬剤があれば,そこでステップダウンを試みるという治療戦略がありうると思います。
【質問者】
寺本信嗣:筑波大学附属病院 ひたちなか社会連携研究教育センター教授
【A】
気管支喘息の要素のない,純粋なCOPDについて回答します。COPD患者が治療効果を実感する(労作時呼吸困難が軽減する)には十分な気管支拡張により,労作時の動的過膨張を抑制する必要があると考えており,質問者の先生と同意見です。そこで,薬剤の効果・吸入の簡便さなどを総合的に勘案すると,現状ではLAMA/LABA配合剤はその面で臨床的に最もポテンシャルの高い薬剤のひとつかと考えます。しかし,いくつかの大規模試験の結果をみますと,LAMA/LABA配合剤は1秒量の改善においてはLAMA単剤よりおおむね優れておりますが,息切れや健康関連QOLの改善におきましては,LAMA単剤より明らかに優れているとは結論できず,LAMA単剤でも十分に臨床症状のminimal clinical important difference(MCID)をクリアする効果が期待できます。また,長期的な増悪抑制効果も,tiotropium単剤よりもLAMA/LABA配合剤が優れているということも証明されておりません。
このようなエビデンスを勘案しますと,初期治療においては必ずしもLAMA/LABA配合剤ではなく,既に長期の処方経験があり,安全性の高いLAMA単剤で治療開始することが,薬価においても有利であり,現状ではスタンダードと考えております。ただし,過去の文献・エビデンスにおいては,症状の程度や呼吸機能の重症度による層別化した詳細なデータはなく,臨床的に重症であれば当初からLAMA/LABA配合剤を含む濃厚治療で開始することも必要だと感じております。