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慢性腎臓病に対するD受容体作動薬(VDRA)投与【副次的効果の位置づけ】

No.4806 (2016年06月04日発行) P.62

稲熊大城 (奈良県立医科大学附属病院感染症センター)

登録日: 2016-06-04

最終更新日: 2016-12-16

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【Q】

慢性腎臓病ではビタミンDの活性化障害やリンの蓄積とともに,様々な骨病変,ミネラル代謝異常が出現するため,活性型ビタミンD製剤の補充が行われてきました。近年,ビタミンD欠乏症は心血管疾患の有意なリスク因子であるとの認識から,ビタミンD補充による心血管イベント抑制効果も期待されています。一方で,投与量によっては中毒量となり,副反応が前面に出る症例も多々経験します。
慢性腎臓病に対するビタミンD投与のコツや注意点をご教示下さい。名古屋第二赤十字病院・稲熊大城先生にお願いします。
【質問者】
林 宏樹:藤田保健衛生大学医学部腎内科学

【A】

活性型ビタミンD(1,25D)は骨カルシウム(Ca)代謝の中心的役割を演じていますが,それ以外の,いわゆる非古典的作用が注目を集めています。特に心血管系に対する作用が興味深く,1,25Dは,心筋肥大抑制,レニン分泌抑制ならびに血栓形成抑制など様々な方面から心血管病発症を抑制することが知られています。
ビタミンDの活性化は,腎臓以外に単球などでも証明されており,局所で25ヒドロキシビタミンD(25D)が活性化されることが,非古典的作用には重要とされています。その観点からすれば,天然型ビタミンDを補充することで血清25D濃度を上昇させ,局所での1,25D濃度を上昇させることが理にかなっていますが,どの程度の補充が適切かについては,いまだに不明なことが多く,またわが国では薬剤としての使用はきわめて限定的であり,実臨床においてはビタミンD受容体作動薬(vitamin D receptor activators:VDRA)の投与が行われています。
慢性腎臓病では,ステージG4以降になると血清1,25D濃度が正常下限である20pg/mLを下回ることが多くなり,また血清副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)濃度も上昇している症例が多いため,VDRAの投与が検討されますが,懸念されるのは,残腎機能に対する悪影響と血管石灰化です。
過去に,VDRA投与が腎機能を低下させたとする報告が散見されますが,この時代の投与量は,比較的高用量であり,現在実臨床で使用する0.5
μg/日以下では腎障害が起こることは少ないとされています。しかし,低用量でもVDRAの使用で血清クレアチニン濃度が上昇する症例を,腎臓内科医であれば必ずと言ってよいほど経験します。特にステージG4あるいは5の進行した慢性腎臓病症例に投与した場合は,血清Ca濃度の上昇を必ずしも伴っていません。尿中Ca排泄量の増加,リン(P)濃度の上昇あるいは尿細管へのクレアチニン分泌が低下した結果など,様々な機序が考えられています。したがって,ほかに原因の見当たらない腎機能の増悪に関しては,VDRAを中止することが,臨床的なプラクティスとしては正解です。
血管石灰化に関しては,1,25Dは血管石灰化抑制因子であるklothoならびにmatrix Gla proteinレベルを上昇させるなど,抑制的に作用します。しかし,作用は2相性とされ,過剰投与により高Ca血症や高P血症をまねくと血管石灰化に対し促進的に作用します。適正な用量は体格や腎機能の程度など,個人差が大きいと考えますが,臨床的には血清CaならびにP濃度を正常範囲内(できれば上限域よりも低め)に維持する用量にとどめておくことが無難と言えます。その場合,全例で血清1,25D濃度を測定するのは現実的ではありません。
現時点における保存期慢性腎臓病に対するVDRA投与に関しては,心血管病発症抑制効果を狙って使用するべきと言えるほどの根拠に乏しいため,これまでのように,二次性副甲状腺機能亢進症あるいは血清Ca濃度の是正を目的とした治療を行い,心血管病予防はあくまでも副次的効果という位置づけでの投与が良いと考えます。

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