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犯罪行為の通報

No.4695 (2014年04月19日発行) P.69

竹中郁夫 (弁護士)

登録日: 2014-04-19

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

救急外来で,頭痛を訴えて来院した患者が問診に対して覚せい剤を使用しての頭痛であると答えた。もし本当なら警察に連絡しなければならないと告げると,患者は慌てて支払いもせずに帰った。
この場合,警察に通報すべきだったのか。確証のない個人情報として放置してよかったのか。法的にはどう考えるべきか。また,医師でなく,宗教者が懺悔として犯罪行為を聞いた場合はどうか。 (京都府 K)

【A】

刑法第134条1項は,医師や弁護士などが「正当な理由がないのに」業務上知りえた人の秘密を漏らしたときは懲役や罰金の刑に処されると定め,同条2項も宗教職などの者に同じ秘密漏示を禁じる規定を置いている。
したがって,医師や宗教者は,原則として業務上知りえた人の秘密を漏らすことは許されないが,「正当な理由」があれば例外として罰せられることはないということになる。
最近の法状況においては,「児童虐待防止法」や「高齢者虐待防止法」が,「刑法」の秘密漏示罪,守秘義務の規定ゆえに,虐待の通報義務を妨げると考えてはならないと規定するように(児童虐待防止法第6条3項,高齢者虐待防止法第21条6項),刑法の秘密漏示罪や守秘義務を理由に,犯罪通報をないがしろにしてはならないという考え方も進捗してきている。
2005(平成17)年7月19日最高裁判所第一小法廷決定は,覚せい剤使用患者につき,「……医師が,必要な治療の目的で救急患者から尿を採取して薬物検査をしたところ,覚せい剤反応があったため,その旨を捜査機関に通報し,これを受けて警察官が尿を押収したなどの事実関係の下では,警察官が尿を入手した過程に違法はない(要旨)」と判示し,治療の目的で救急患者から尿を採取して薬物検査を行った医師の通報を受けて警察官が押収した尿には,その入手過程に違法性はないとの判断を示している。
守秘義務違反そのものでなく,違法収集証拠といった論点についての判断であるが,単に守秘義務を墨守すれば無難というよりは,虐待防止法のごとく,守秘義務と通報による被害者の法益擁護を両にらみの上で,プロスペクティブには是非の判断が微妙な問題であり,守秘義務を持つ者が直面せざるをえない時代と言ってもよいだろう。このことは宗教者についても法論理上,パラレルな議論となる。レトロスペクティブにどうなるかは,数少ない判例や法令を読み,最終的には各事例が確定するまでは分からないが,プロスペクティブには,各人の倫理観,コンプライアンス意識,透
徹した実務家感覚で選ぶほかないが,医師や宗教家だけでなく,公務員や契約上の守秘義務を負う者等もこのような決断を必要とされている時代と言って良いだろう。

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