【Q】
発熱時にSpO2が低下する症例をよく見かける。特に悪寒戦慄を伴う高熱時に多く,一過性で,解熱とともに自然に回復するように思う。その原因・機序がわかれば。 (福岡県 S)
【A】
発熱時に胸部X線では異常を認めないにもかかわらず,SpO2の低下を示す症例をしばしば経験する。低酸素血症のメカニズムには基本的に(1)換気血流比(V/Q)不均等,(2)右→左シャント,(3)拡散障害,(4)肺胞低換気,がある。
これが可逆性であることも考慮すると,発熱時の低酸素の要因として,まず肺血流量の増加に伴う肺毛細血管通過時間短縮による拡散能低下が挙げられる。何らかの原因で高体温となる場合,一般に全身組織での代謝亢進により酸素需要が増大する。これは運動負荷を行っている状態と考えればわかりやすい。酸素需要の増大に伴って心拍出量が増大すると,肺血流量も増加する。肺静脈~肺毛細血管・間質を通過するまでの間にガス交換を終了しなければならないが,肺血流量の増加は肺毛細血管通過時間を短縮させるため,十分な拡散が行われない可能性がある。次に,肺血流量の増加がそれまで閉鎖していた肺毛細血管を開き(補充現象:recruitment phenomenon),換気血流の不均等をまねくことが挙げられる。通常,健常人であれば,肺血流量の増加とともに換気量も相応に増加するため,換気血流の肺内分布は均一に維持されるように代償されるが,この代償機能が低下している呼吸器疾患患者などでは,V/Q不均等を生じうる。
COPDなどでは,末梢気道は閉塞しており,換気量増大が起こっても,気道抵抗が少ない気道が優先的に開き,気道周囲の線維化を伴う部分や肺胞破壊を伴っている部位の開存は限定される。そのため,換気量増大時のほうが,気流分布も不均等になる。間質性肺炎のような線維化が主体の場合でも,拡散障害の悪化とともに,このV/Q不均等が悪化する。問題は,これらの末梢気道病変は加齢でもある程度生じている点である(老人肺という)。つまり,明らかな呼吸器疾患を有さないと考えられる高齢者でも起こりうる現象である。また,呼吸器疾患でなくとも,心不全の悪化などの場合でも,末梢気道閉塞が起こりうるため,同様にSpO2の低下がみられる場合がある。
また,V/Q不均等に影響する因子として,1回換気量の減少,死腔の増加などがある。発熱時に呼吸促迫する場合,浅く速い呼吸となり,1回換気量が減少して,相対的に死腔換気率が増加し,血流量は増加するが換気ユニットは減少するシャントと,V/Q不均等が生ずる。これは拘束性換気障害で悪化するため,高齢者で肋軟骨石灰化などにより胸郭可動域制限が生じている場合,間質性肺炎のような呼吸器疾患だけでなく,多発性筋炎,神経疾患患者などでもみられる。
また,PaO2と乖離してSpO2低下がみられる場合がある。これは,酸素乖離曲線が高体温やアシドーシスによって右側にシフトするため,酸素を組織に放出しやすい状態となり,その結果としてSpO2はPaO2に比べ相対的に低下する。