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精神障害者への損害賠償請求

No.4707 (2014年07月12日発行) P.66

竹中郁夫 (弁護士)

登録日: 2014-07-12

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

入院患者が医療機関(病院)の物品を破損した場合,患者にその修理費用を負担してもらうことはあると思うが,患者自身が精神障害者あるいは認知症患者で判断力が不十分な状態で医療機関の物品を破損した場合,その請求を患者本人あるいは家族に対して行えるものか。(新潟県 H)

【A】

(1)民法上の規定
民法第709条は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定めている。
したがって,入院患者が故意や過失で病院の備品を破損した場合には,その入院患者本人が損害賠償の責任を負うのが原則である。
ところで民法は,これと同じ不法行為の章において「精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は,その賠償の責任を負わない。ただし,故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは,この限りでない」(第713条)と定めている。
このことから,患者が精神障害者や認知症患者であって理非弁別能力を欠く場合は,原則として賠償責任を負わないということになっている。

(2)責任の所在
では,このような場合,賠償の責任は誰も負わないのかというと,そうではなく,民法第714条1項では「前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において,その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は,その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし,監督義務者がその義務を怠らなかったとき,又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは,この限りでない」と定め,同条2項は「監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も,前項の責任を負う」と定めている。
この責任無能力者を監督する法定の義務を負う者(精神保健法の「保護者」等で,通常は家族がその立場であることが多い)が損害賠償責任を負うのを原則とする。また,監督義務者に代わって監督する責任を負う者がいる場合は,その者も同じく賠償責任を負うことになる。

(3)賠償の責任分担
このような賠償義務の分担となっているので,責任無能力者が病院の備品を壊した場合は,監督責任を負う家族が賠償責任を負うが,同時に家族との診療契約で患者の監督を引き受けている病院にも同じく責任があることになる。
結局,備品の破損について病院の監督責任に過失が認められる場合は,家族と病院の破損事故への監督懈怠の寄与度によってはその損害賠償を十分に受けることが困難になる場合も出てくることになる。

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