株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

COPD診断におけるCT検査の意義

No.4716 (2014年09月13日発行) P.60

西村正治 (北海道大学大学院医学研究科呼吸器内科学分野教授)

登録日: 2014-09-13

最終更新日: 2016-10-18

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【Q】

わが国では,COPDの確定診断や喘息などの関連疾患との鑑別のための有力な検査方法としてCT検査が普及している。実際,日本呼吸器学会の「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第4版」(2013年)では,詳細な所見が記載されている。しかし,GOLD文書の2011年版では,画像検査の記載は少なく,「胸部コンピュータ断層撮影(CT)をルーチンで行うことは推奨しない」と記載されている。
(1)COPD診断におけるCT検査の意義について,日本呼吸器学会とGOLDの記載が大きく異なる理由は。
(2)最近,わが国で発売されたCOPD薬における臨床試験を見ると,対象症例では喫煙歴,症状,肺機能検査所見のみで,CT所見はまったく含まれていない。したがって,「対象症例には,喘息など様々なCOPD以外の疾患が含まれている/必ずしもCOPD症例だけではない」と判断して差し支えないか。
これら両方の作成に関与された北海道大学大学院医学研究科呼吸器内科学分野・西村正治教授に。 (京都府 I)

【A】

(1)COPD診断におけるCT検査の意義
肺CT検査の意義が,2011年版GOLD文書と2013年発行の日本呼吸器学会(JRS)ガイドライン第4版の記載において大きく異なる理由は,第一に医療制度上の差異が挙げられる。わが国では呼吸器臨床において肺CT検査はルーチンに行われるが,欧米諸国を含むほとんどの諸外国では,COPD患者に対してルーチンに行われることはない。実際,増悪による入院時でさえも肺CT検査が施行されることは稀である。これは,CT機器の普及率が低いこと,また,医療保険がCOPDにおける肺CT検査を認めていないことによる。
第二に,医学的な理由が挙げられる。一般的には,COPD診断は通常の胸部X線写真と肺機能検査で可能であり,仮に肺CT検査を導入しても患者のトータルケアに影響はないものとされている。さらに,GOLD文書は世界中のCOPD患者を意識して書かれている指針であるため,高額な検査を推奨することはできないという背景もある。一方,わが国においてはCOPD診療における肺CT検査の長い歴史があり,多くの知見も蓄積されている。肺気腫の重症度評価に加えて,合併する肺癌のスクリーニング,増悪時の肺炎との鑑別にも有用性が高い。なお,欧米においても臨床研究の手段としての有用性・重要性が認められてきている。近年行われた大規模多施設の前向き観察研究では,肺CT画像で評価する肺気腫重症度は1秒率,1秒量などの肺機能検査指標とは独立した臨床的意義を有するとされている。

(2)COPD自体の診断にCT検査は必須か
COPD患者を対象とした臨床試験で,エントリー基準に肺CT検査が含まれていないからといって,喘息や閉塞性換気障害をきたす他疾患が含まれていると考えるべきではない。一般的には,肺CT検査がなくても病歴,胸部X線写真,可逆性検査を含む肺機能検査,末梢血好酸球を含む血液生化学検査等々によって除外診断は可能である。
肺CT検査は肺気腫の定量評価にきわめて有用ではあるが,COPDは肺気腫と同義ではない。同程度の固定した閉塞性換気障害(1秒率,1秒量の低下)があっても肺気腫の程度は個体差が大きく様々である。JRSガイドラインでは,それをわかりやすく伝えるため,COPDには気腫型(肺気腫優位型)と非気腫型(末梢気道病変優位型)の病型があることを説明しているが,この両者は二峰性の分布を示すものではなく連続的である。言い換えるならば,肺CT検査はCOPDの病型診断に有用ではあるが,COPD自体の診断に必須な検査ではない。

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top