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不安定型糖尿病の発生機序

No.4724 (2014年11月08日発行) P.53

浜口朋也 (市立伊丹病院糖尿病センター長)

佐藤智己 ほか (市立伊丹病院糖尿病内科主任部長)

登録日: 2014-11-08

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

不安定型(ブリットル型)糖尿病の仕組みについて。インスリンの皮下吸収や消化管での食物の移動とどのような関係があるのか。 (東京都 F)

【A】

[1]不安定型糖尿病の仕組み
不安定型(ブリットル型)糖尿病とは,血糖変動が顕著な動揺性を呈する病態を指す。高血糖や低血糖を頻回に生じるため,治療に苦慮する。病型を問わず,患者のインスリン分泌能が低下すればするほど血糖変動は大きくなる。特に,インスリン分泌能が重度に低下した症例ではインスリン皮下注射を要し,血糖変動もインスリン補充パターンに強く依存する。こうした症例ではインスリン動態のわずかな変化と,食事や運動の量やタイミングに応じて血糖レベルの不安定性は増してしまう。血糖変動は2型糖尿病よりも1型糖尿病で顕著であり,良好な血糖コントロールを達成しにくいのはそのためである。

[2]インスリンの皮下吸収との関係
皮下投与されたインスリンは,種類(超速効型,速効型,中間型,持効型)によって皮下からの吸収速度が異なるため,効果の発現時間や発現程度も異なる。たとえば,超速効型インスリンアナログは皮下で単量体を形成しやすくすることにより皮下吸収を速やかにしている。
ほかにも吸収速度を左右する条件として,(1)投与量,(2)注射部位,(3)注射の深さ,(4)温度,(5)運動やマッサージの有無,などが挙げられる。すなわち,投与量が少ない,臀部や大腿よりも腹部,皮下注よりも筋注,高い気温,運動や注射部位をマッサージする場合に吸収速度は速まる。
インスリンを皮下投与した後,食事までの短時間に入浴したら急速に血糖降下して低血糖に至った症例など,吸収条件の変化によりまったく異なるインスリン動態に驚かされた医師も少なくないだろう。インスリンを同一部位へ連続皮下注射した際の皮膚変化(脂肪萎縮や脂肪増生)も吸収速度に影響する。皮膚にアミロイドの硬結が生じるインスリンボールも皮下でのインスリン吸収を遅延させて,予想できない高血糖や遅延した血糖低下を認める。これらの現象は基本的な知識として患者と共有しておくことが望まれる。

[3]消化管での食物の移動との関係
摂食は栄養素の種類や食物繊維の違いで腸管─膵連関を介してインスリン分泌に影響する。中でも小腸からのグルコース吸収は速やかに血糖値を上昇させ,インスリン需要を増大させる。小腸への食物移行が速くなるダンピング症候群や,吸収が促進される甲状腺機能亢進症では食後の過血糖や反応性の低血糖を生じることがある。
消化管での食物の移動と不安定型糖尿病に関してよく知られた病態として糖尿病自律神経障害による胃不全麻痺がある。患者の胃排出は遅延しており,食物が不規則に小腸へ移行することによって食後のインスリン需要は一定せず,不安定型の血糖変動を生じる。この場合,消化管運動促進薬を用いて胃排出遅延が改善されると血糖不安定性も改善される。
ほかにも,過食や肥満はインスリン需要を増大させ,また適切な運動はインスリン需要を軽減する。過剰,過少あるいは不規則な食事・運動療法は,インスリン需要を変化させて血糖変動を不安定にさせる。さらには感染や炎症,外傷,精神・心理面での変化(怒り,抑うつ,不安など)など,患者のインスリン感受性に影響する因子は様々である。
日常生活の中で個体のインスリン需要やインスリン効果を変動させる要因は多く存在するため,両者に乖離が生じやすくなる。不安定型糖尿病の患者では,食事時間とインスリン注射とのタイミングのずれや,不適切なインスリン投与法,患者の誤った摂食・運動パターンなど,血糖変動を不安定化させる要素を丹念に是正する努力が必要である。

【参考】

▼ Bertuzzi F, et al:Curr Med Chem. 2007;14(16): 1739-44.
▼ 本郷道夫:月刊糖尿病. 2013;5(7):59-64.
▼ 黒田暁生, 他:プラクティス. 2012;64-70.
▼ 浜口朋也, 他:Mebio. 2002;19(6):40-5.

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