【Q】
80歳の女性で右閉鎖孔ヘルニアの症例。超音波によりヘルニア嵌頓小腸を描出し,右骨盤壁を左迫していたら偶然にも整復できた。文献的には大腿前間に超音波プローブを当て,長内転筋背側を左迫して整復すると記載されている。長内転筋背側とはどの場所なのか,また閉鎖孔との位置関係はどうなっているのか。閉鎖孔ヘルニアの用手的整復の方法を詳しく。 (秋田県 F)
【A】
閉鎖孔は,骨盤模型のイメージから見ると,かなり巨大な穴であることがわかる。しかし,その大部分は閉鎖膜と呼ばれる組織で塞がれており,閉鎖孔ヘルニアは,図1で示す位置の閉鎖管から出てくる(文献1)。
整復は股関節を屈曲・外転位(開排位)にして行う。自作の骨格・筋肉モデルで示すが,股関節を伸展した状態では,通常閉鎖孔の外側(大腿側)は,いくつかの筋肉で隠れている(図2)。しかし開排位をとると,恥骨から始まる長内転筋と薄筋は前方に移動し,坐骨から始まる後ろの大内転筋は残るため,閉鎖孔と皮膚の間に,大きな筋肉がなくなる(文献2)(図3)。
アプローチの目印は長内転筋というより薄筋(特に高齢者で開排位をとると,一番突っ張る筋)である。この後縁(背側)を恥骨方向にたどっていくと,恥骨結節のやや外側で,閉鎖孔の正面に到達できる。長内転筋は,このときほとんど薄筋の後ろに隠れており,後縁を触知できる程度である。閉鎖孔ヘルニアは,この薄筋と長内転筋の下をくぐって出てくることから,多くの場合,左右を比較触診すれば,嵌頓したヘルニア嚢を皮下に触知できる。痩せた患者の場合は視認できることもある。
整復の際,鼠径ヘルニアや大腿ヘルニアでは,ヘルニア嚢を後方から圧迫することができず,前,両側および下方からしか圧迫できないのに対し,閉鎖孔ヘルニアでは閉鎖管にほぼ正面から肉薄できるので,四方から圧迫できる。この特徴を頭に入れて,たとえば天井の豆電球を交換するように術者の指3本または4本を朝顔型にして,まんべんなく圧力を加える(図4)。この際,図4で術者の左手のある位置に超音波のプローブを当てれば,整復される様子が観察できる。
1) 金子丑之助:日本人体解剖学. 第1巻. 第12版.南山堂, 1968, p207-16, 466-96.
2) 髙木 格, 藤井 康:日腹部救急医会誌. 2013;33(8): 1289-93.