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生活習慣病と寝たきり期間の関係

No.4737 (2015年02月07日発行) P.62

足立 祥 (京都大学医学部附属病院糖尿病・内分泌・栄養内科)

近藤祥司 (京都大学医学部附属病院糖尿病・内分泌・栄養内科高齢者医療ユニット院内講師)

登録日: 2015-02-07

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

生活習慣病のコントロールが,どれほど長期臥床(寝たきり)期間の短縮に役立つのかを知りたいと患者から質問を受ける。生活習慣病予防と長期臥床期間の関係を。 (東京都 H)

【A】

平成25年「国民生活基礎調査の概況」で要介護度4,および5と認定された人の主な原因を見てみると,(1)「脳血管疾患(脳卒中)」,(2)「認知症」,(3)「骨折・転倒」,(4)「高齢による衰弱」の順となっている。「認知症」の場合,身体機能が保たれていても,記銘力障害,失見当識や,行動・心理症状のため,要介護度4以上になることが多々あり,必ずしも「寝たきり」を意味しない。よって現時点では,「脳血管疾患(脳卒中)」,「骨折・転倒」,「高齢による衰弱」が,「寝たきり」の主な原因と推察され,これらを中心に話を進める。
実は,「寝たきり予防」をハードエンドポイントとしたエビデンスはほとんど存在しない。その理由の1つは,欧米では延命のためのPEGや輸液などには消極的であり,「寝たきり」の概念自体に馴染みがないからである。よって,ご質問の「生活習慣病予防と長期臥床期間の関係について」に関しては,「寝たきり3大原因の脳血管疾患(脳卒中),骨折,高齢による衰弱に関する予防のエビデンスについて」という質問と同意義と解釈し,回答を試みたい。
まず,「脳卒中危険因子」としては,動脈硬化の疫学的危険因子のほとんどが含まれる。すなわち,加齢,男性,高血圧症,糖尿病,脂質異常症,メタボリックシンドローム,喫煙,大量飲酒などであり,生活習慣病以外では心房細動などが示されている(文献1)。よって,これらの生活習慣改善(禁煙,減塩,肥満改善,節酒など)と早期治療を含めた一次予防が重要であることは,ほかの動脈硬化性疾患と同様である。
特に高血圧は脳卒中の最大危険因子であり,血圧コントロールが最重要と考えられている。しかし,その目標値に関しては,わが国では高齢者において,140mmHg以下の厳密な管理群と140~159mmHgのゆるやかな管理群では有意差がなかったので,議論がわかれる(JATOS)(文献2)。
心房細動に関しては,洞調律維持が心拍数調節にまさらないという意外な結論が欧米の大規模試験で報告され,抗凝固療法の適応の判断がまず重要であると考えられている。抗凝固療法は,抗血小板療法より明らかな優位性が証明されている。非弁膜症性心房細動は,CHADS2スコアに基づくリスク評価による抗凝固療法が推奨されている。
2番目に,「骨折危険因子」として,低骨密度(骨密度が1標準偏差低いと,男女とも1.5~2倍骨折リスクが高まる)以外に,高齢,女性,既存骨折,家族歴,やせ,カルシウム低摂取,運動不足,ステロイド使用,転倒因子や,意外にも喫煙,飲酒などが知られている(文献3)。これらの生活習慣改善(禁煙,適度な運動,節酒など)と骨粗鬆症の早期治療が重要である。注意すべきは,カルシウム摂取自体には骨量増加効果はあっても,骨折予防のエビデンスはないという点である。そのため,ビスホスホネート製剤など明確なエビデンスを有する薬剤による骨粗鬆症の加療が望ましい。
骨粗鬆症は,「沈黙の病気」とも呼ばれており,医療サイドからの積極的な啓蒙,早期診断が重要である。しかし,残念ながらわが国では,骨粗鬆症患者の80%は未治療と言われており,先進国の中で唯一,いまだに骨折が増加しているという不名誉な現状にある。カナダなどnation-wideでの取り組みが奏効した前例を教訓とし,日本でも国家全体での取り組みが必要である。
3番目に,「高齢による衰弱」については,最近「サルコペニア」が注目を集めている。2番目に述べた骨折リスクに含まれる「転倒」予防の観点からも「サルコペニア」は重要である。2014年,日本老年医学会は「虚弱」を「フレイル」と命名し,その要件となる5項目(体重減少,易疲労,筋力低下,歩行スピード低下,身体活動性低下のうち3つ以上を満たすこと)を規定した。「フレイル」に対する明確なエビデンスは今後の課題であるが,現時点での予防法として,十分な蛋白摂取,定期的な運動,身体活動や認知機能の定期チェック,感染予防,手術後のリハビリなどの適切なケア,内服の多いケースの整理などが提案されている。

【文献】


1) 脳卒中合同ガイドライン委員会:脳卒中治療ガイドライン 2009. 日本脳卒中学会.
2) Rakugi H, et al:Hypertens Res. 2010;33(1): 1124-8.
3) Johnell O, et al:J Bone Miner Res. 2005;20(7): 1185-94.

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