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死体検案における「事件性」とは

No.4750 (2015年05月09日発行) P.62

池谷 博 (京都府立医科大学大学院 法医学・医学生命倫理学教授)

登録日: 2015-05-09

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

死体検案における「事件性」とは,具体的にはどのように判断するのでしょうか。(兵庫県 K)

【A】

この問いに答える前提として,変死体が発見されてからの流れを理解しなくてはなりません。変死体が発見されると,何よりもはじめに検察官または警察官による検視を経なければなりません(刑事訴訟法第229条第1項および第2項)。医師による検案は,その後となります。
警察官が行う検視の詳細は検視規則に定められていますが,検視は犯罪行為に関連した死体などであるかどうかに主眼が置かれて実施されます。
すなわち「事件性」とは,犯罪行為への関連性のことであり,検察官が判断するものであって,医師が判断するものではありません。警察官が検察官に代行して行う検視での医師の役割は立ち会うことだけです(検視規則第5条)。
また,死体検案とは,死亡診断書を書くことができず,死体検案書を発行しなくてはならない場合(詳細は本誌OPINION欄,No.4717,p16参照)に医師が行わなくてはならない検査であり,一般的には外表から死体を検査し,死因や死亡時刻などを判断することです。死体検案に際して,解剖は必須ではありません。
もともと,刑事司法制度は一般的な変死事案を想定して成り立っています。医師法第21条に「医師は,死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは,24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」と記載されています。異状の公式な定義はありませんが,上記の法律の本来の趣旨は,一般人よりも死体および変死体に遭遇しやすい医師に犯罪捜査の端緒を担ってもらうことであり,事件性を含むはずです。
最高裁判所でも,2004年の東京都立広尾病院事件の判決において,「本件届出義務は,警察官が犯罪捜査の端緒を得ることを容易にするほか,場合によっては,警察官が緊急に被害の拡大防止措置を講ずるなどして社会防衛を図ることを可能にする」としており,異状死届け出が犯罪捜査の端緒の把握と社会防衛のために非常に重要と考えているようです。
同最高裁判決では「医師法21条にいう死体の『検案』とは,医師が死因等を判定するために死体の外表を検査すること」とも言っており,外表上に異状があるかどうかをチェックすれば足りると言えます。外表上の異状を万が一見逃したとしても,医師法第21条に基づいて処罰されることはありません。ただし,同最高裁判決では,ほかの情報などにより犯罪が濃厚に疑われている場合であっても,検案で外表上の異状がなければ届け出なくてよい,とまでは言っていないことに注意が必要です。このことからも可能な限りの検査を尽くして,死因を診断すべきでしょう。

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