【Q】
患者から同意がとれない状況での医療行為についてご教示下さい。手術や検査を行う上で本人の同意は必要ですが,必ずしもそのような状況であるとは限りません。旅行病人,身元不明の傷病者などに対して,本人や家族などの同意や意向が確認できない状況では,手術や検査などの医療行為や延命治療をどのように取り扱えばよいでしょうか。 (京都府 I)
【A】
医療行為とは,「当該行為を行うに当たり,医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし,又は危害を及ぼすおそれのある行為」(平成17年7月26日医政発第0726005号厚生労働省医政局長通知)とされています。
医事法の観点からは,医療行為が適法になされるためには,(1)医学的に治療が必要な状況で医師が治療目的を有していること,(2)医療行為の方法が現代医療の見地からみて妥当と解されること,(3)患者本人の同意があること,という3つの要件が求められます。
臨床の現場では,(3)の要件に関して,患者本人に同意能力がない場合,家族の同意により医的侵襲を伴う手術などが行われているのが現状でしょう。判例も,本人が同意できない場合は,家族への説明や同意を本人に対するものと明確に区別せず,「患者側」としてゆるやかにとらえ判断する傾向があります。
そこで,ご質問の旅行病人,身元不明の傷病者といった,本人に同意能力がなく家族もいない場合が問題となります。医療同意を厳格に受け止め,同意がない以上,医療行為はできないとして積極的な医療行為を行わないという事態も生じかねません。
法的には,緊急性がある場合は,前述の医療行為適法化の2つの要件,すなわち,(1)医学的適応性と,(2)医術的正当性があれば,同意がなくても医療行為を行うことができます。また,予定されている医療行為が比較的安全で,個人の価値観に関わらない軽微なものである場合は,同意を取得することなく医療行為が行われているようです。これらは医療契約と併存する医療行為とみなされ,黙示的に同意が表明されているという解釈からです。
他方,手術や危険を伴う検査などによって重大かつ長期に及ぶ健康上の障害を被る恐れがある場合,生命維持装置の装着問題などについては,現行法上では法的根拠のあいまいな中での対応になっています。実務では既に,病院内の倫理委員会に代行決定を求めたり,行政機関に代行判断者の選任を求めたりという動きも出はじめています。近隣にそのような機関があれば,ご利用になるのがよいでしょう。それがかなわない場合には,まず,その患者にとっての最善の利益を担当医が検討し,専門医や様々な分野の専門家と相談・議論を行いながら,方向性を探っていくしかないと考えます。
今後,同意に関する代行決定や相談に応じる第三者監督機関として,裁判所や医療同意審査会等の役割分配など,立法による解決が待たれます。
▼ 日本弁護士連合会:医療同意能力がない者の医療同意代行に関する法律大綱. 2011.
[http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/111215_6.pdf]