【Q】
間質性肺炎(interstitial pneumonia:IP)合併肺癌患者への抗癌剤の選択について,最近の見解をご教示下さい。 (福岡県 S)
【A】
IP合併肺癌患者に対する抗癌剤の抗腫瘍効果は,非IP患者と比較して同等と考えられます。しかし,抗癌剤に起因する急性増悪が8~30%と高頻度に認められます。
IP合併肺癌患者に対して抗癌剤の投与を検討する場合,治療前に急性増悪のリスクを評価することが重要です。画像上,通常型間質性肺炎(usual interstitial pneumonia:UIP)パターンは,非UIPパターンと比較して急性増悪のリスクが高い(UIP 30% vs. 非UIP 8%,P=0.005)ことが報告されている(文献1)ため,治療前に高分解能CT(HRCT)検査を行い,評価することが望ましいでしょう。また,肺気腫と肺線維症を合併した肺気腫合併肺線維症(combined pulmonary fibrosis and emphysema:CPFE)に関しても,IP患者と同様に急性増悪に注意する必要があります(文献2)。
IP合併肺癌患者に対して抗癌剤を選択する際には,なるべく肺毒性の少ない薬剤を選択することが望ましいでしょう。IP合併肺癌患者に対する化学療法の実態調査によると,非小細胞肺癌ではカルボプラチン+パクリタキセル療法,小細胞肺癌ではプラチナ製剤+エトポシド療法が初回化学療法として日常診療で多く用いられています。
これらレジメンの急性増悪発症率はそれぞれ8.6%,5.8%と,ほかのレジメンと比較して低くなっています(文献3)。非扁平上皮非小細胞肺癌のキードラッグであるペメトレキセドは,非IP患者と比較してIP合併肺癌患者で肺毒性の発生率が高くなることが報告されているため,注意する必要があります(IP患者12.0% vs.非IP患者1.1%,P=0.03)(文献4)。
わが国では上皮成長因子受容体(EGFR)阻害薬のゲフィチニブ,エルロチニブ,アファチニブ,未分化リンパ腫リン酸化酵素(ALK)阻害薬のクリゾチニブ,アレクチニブが分子標的治療薬として承認されています。
ゲフィチニブは,通常の化学療法と比較してIP発症の相対リスク比が調節オッズ比で3.23(95
%CI:1.94~5.40)と高く,IP例の死亡率は31.6%と致死的であることから(文献5),IP合併肺癌患者に対してはゲフィチニブを原則投与するべきではありません。
クリゾチニブによるIPの発症率は2.1%ですが,発症患者の約半数が死亡しています(文献6)。ゲフィチニブと同様にクリゾチニブも投与を控えることが望ましいでしょう。ほかのEGFR阻害薬やALK阻害薬も,基本的には上記2剤と同様に考え,投与は原則控えるべきです。
また,血管新生阻害薬のベバシズマブは,IPの発症率が0.4%(添付文書)とされていますが,IP合併肺癌患者に対する安全性は確立していないことから,ほかの抗癌剤との併用は慎重に検討するべきです。
最後に,IP合併肺癌患者において抗癌剤に起因する急性増悪の予防法は確立していません。急性増悪を発症すると致死的になる可能性が高いことから,抗癌剤を投与する際は十分にインフォームドコンセントを行い,患者にリスクとベネフィットを説明した上で,実施を検討するべきであると考えます。
【文献】
1) Kenmotsu H, et al:J Thorac Oncol. 2011;6(7):
1242-6.
2) Minegishi Y, et al:Lung Cancer. 2014;85(2): 258-63.
3) 弦間昭彦, 他:びまん性肺疾患に関する調査研究班平成21年度研究報告書. 2010, p105-7.
4) Kato M, et al:BMC Cancer. 2014;14:508.
5) Kudoh S, et al:Am J Respir Crit Care Med. 2008;177(12):1348-57.
6) ファイザー株式会社ザーコリ▼適正使用ガイド監修委員会:ザーコリ適正使用ガイド. 2014年7月.