【Q】
71歳,男性。2歳の頃,ひどい水痘に罹患しました。全身,特に顔面に後遺症のあばたが残るほどであったと言います。成年してから数年に1度,比較的軽い帯状疱疹に罹患しました。帯状疱疹後神経痛(postherpetic neuralgia:PHN)は1度もありません。最後に罹患したのは4年前で,部位は左大腿外側ですが,該当箇所に知覚鈍麻と,数個の発赤丘疹が残り,持続的な痒みがあります。ときどき痒みがひどくなり,3,4個残っている丘疹の赤みが強まり,痛痒さを訴えます。アシクロビル軟膏を塗布すると20~30分で赤みと痒みが改善します。
帯状疱疹ウイルスが潜在するのは神経節と聞いていますが,この場合には帯状疱疹ウイルスは皮膚に残存していると考えられるでしょうか。
(東京都 W)
【A】
水痘の罹患は帯状疱疹の診断に必須とされる既往歴です。この症例における,「数年に1度の比較的軽い帯状疱疹」「帯状疱疹後の知覚鈍麻と持続的な痒み」「アシクロビル軟膏が奏効すること」「ウイルスの潜伏部位」について考察してみます。
「数年に1度の比較的軽い帯状疱疹」について,発症部位がわかりませんが,帯状疱疹の頻回の再発だけでなく,単純ヘルペスウイルス(herpes sim-plex virus:HSV)の再発の可能性もあるかと思います。
英国での家庭医の帯状疱疹は17%が誤診とされており,HSVとの鑑別が十分ではないようです(文献1)。わが国の皮膚科医の正診率は治験などのデータからは95%以上です。宮崎県皮膚科医会の調査による帯状疱疹の再発は,帯状疱疹の6%程度で,回数は4回まで,基礎疾患がなくても経験し,同部位もあるが,異なる部位のほうが多いとされています。
帯状疱疹後に3カ月以上続く痛みは,PHNとして知られています。今回のような「帯状疱疹後の知覚鈍麻と持続的な痒み」に関して,すなわち,知覚鈍麻や長期に続く掻痒感(postherpetic itch:PHI)は,PHNと同時に,または独立して発症することが知られています(文献2)。
病態は明らかではありませんが,神経因性(末梢神経や中枢神経障害)とされ,抗ヒスタミン薬や抗炎症薬は有効ではなく,PHNに有効な薬剤も期待できないとされます。掻痒感による過度な皮膚の傷害や,知覚鈍麻のためのやけどや自傷に注意が必要なケースがあります。
PHIには有効な治療がない中で,アシクロビル軟膏が抗ヒスタミン薬などのように,20~30分ほどで痒みを改善させたということで,この症例では治療になったようです。PHIではウイルスの増殖を伴わないことから,アシクロビル軟膏の抗ウイルス作用による効果とは考えにくいと思われます。
「ウイルスの潜伏部位」に関して,動物でのHSVの皮膚感染では,皮膚の移植によってHSV感染が起こることから,短期的には一部皮膚に潜伏すると考えられます。しかし,水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus:VZV)は,水痘の際に,皮膚で増えたウイルスが知覚神経終末から三叉神経節や脊髄後根神経節に至り,そこで潜伏感染します。
VZVは神経節から神経束のシュワン細胞に感染し,神経損傷を起こしながら下行して皮膚に至るので,神経支配領域に沿った皮膚病変を形成します。神経束は神経周膜や神経上膜に包まれているので,ウイルスが免疫にさらされるのは皮膚に至ってからです。
このように3~5日程度の前駆痛を伴い,神経損傷に伴う帯状疱疹特有の痛みを生じます(文献3)。メカニズムは異なりますが,PHNを生じるように,知覚鈍麻と掻痒(PHI)を生じると思われます。
1) Scott FT, et al:J Med Virol. 2003;70 Suppl 1:S24-30.
2) Dworkin RH, et al:Clin Infect Dis. 2007;44 Suppl 1:S1-26.
3) Hama Y, et al:J Virol. 2010;84(3):1616-24.