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脂肪酸の種類と臨床栄養学的意義

No.4769 (2015年09月19日発行) P.70

小林哲幸 (お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系教授)

登録日: 2015-09-19

最終更新日: 2016-12-13

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【Q】

飽和脂肪酸,不飽和脂肪酸,多価不飽和脂肪酸,トランス脂肪酸,ドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid:DHA),エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid:EPA)などについて,それぞれの特徴と違い,その意義,多く含まれる食品などを教えて下さい。 (東京都 M)

【A】

細胞膜をはじめとする生体膜は,リン脂質を主成分とし,リン脂質を構成する脂肪酸の種類は食事によって影響を受けます。リン脂質中の脂肪酸が異なると,生体膜の性質が変化し,膜蛋白質の機能が影響を受けます。また,膜中の脂肪酸はホルモンなどの細胞外からの刺激に呼応して切り出され,様々な生理活性分子へと変換されます。したがって,誤った脂質栄養は細胞機能に影響を与え,動脈硬化や心疾患のほか,アレルギー・炎症やがんなどの疾病に関わることになります(文献1)。
日常の食事で摂取する油脂は,含まれる脂肪酸の種類によって分類されます。以前は油脂をその由来から“動物性”と“植物性”の2種類にわけ,古い栄養指針である「動物性脂肪を減らして,植物油を多く摂取する」もこの分類に基づいていました。しかし,脂質栄養学研究が進んだ今は,ω6(オメガ6,あるいはn-6)とω3(オメガ3,あるいはn-3)の必須脂肪酸バランスを重視して,以下の3つに大別して考えます(図1)。
脂肪酸は,その構造に二重結合がない飽和脂肪酸と二重結合がある不飽和脂肪酸の2つに大別されます。さらに不飽和脂肪酸は,その二重結合の数が1個の一価不飽和脂肪酸と2個以上の多価不飽和脂肪酸にわけられます。多価不飽和脂肪酸には,二重結合の位置の違いによってω6系とω3系があります。

(1)飽和脂肪酸,一価不飽和脂肪酸の系列
飽和脂肪酸,一価不飽和脂肪酸は,動物性脂肪の主成分で,肉の脂身,乳製品,オリーブ油などに多く含まれ,パルミチン酸,ステアリン酸,オレイン酸が相当します。ヒトをはじめ,動物はこの種の脂肪酸を自分で合成できるので,栄養学的には必須脂肪酸ではありません。

(2)ω6系列,n-6系列脂肪酸
ω6系列,n-6系列脂肪酸は,体内で合成されず,欠乏すると皮膚炎などが生じるので必須脂肪酸と呼ばれます。いわゆる“植物油”が代表的であり,多価不飽和脂肪酸に属します。ω6系列脂肪酸にはリノール酸やそれからつくられるアラキドン酸が含まれ,アラキドン酸からは種々の生理活性分子がつくられます。しかし一方で,ω6系列脂肪酸の過剰摂取は,その生理活性分子の過剰反応を通じて心疾患やアレルギー性疾患などを促進することが主に動物実験で示されています。リノール酸は大豆油などの一般的な植物油やマーガリン,油菓子など,多くの食品に含まれています(図1)。

(3)ω3系列,n-3系列脂肪酸
ω3系列,n-3系列脂肪酸には,α-リノレン酸,EPA,およびDHAが含まれ,これらは多価不飽和脂肪酸の一種です。EPAやDHAは魚介類に多く,α-リノレン酸はエゴマ油や亜麻仁油などに多く含まれます。この系列の脂肪酸もまた必須脂肪酸であり,脳や網膜の神経機能を維持する上で重要です。ω6とω3の脂肪酸は,体内で競合的に代謝され,そこからつくられる生理活性分子の活性にも違いがあります(図1)。すなわち,ω6系列脂肪酸からは心疾患,アレルギー・炎症,がんを促進する分子がつくられるのに対して,ω3系列脂肪酸はその過剰反応を鎮める働きをします。
(4)トランス脂肪酸
上記3系列のほかに,トランス脂肪酸があります。工業的に水素添加を行って不飽和脂肪酸(液体)を飽和脂肪酸(固体)に変換するときに,副産物としてトランス脂肪酸が生じます。天然の不飽和脂肪酸は折れ曲がったシス型の二重結合を持つのに対し,部分水素添加では直線に近い並びのトランス脂肪酸が多く生成します。マーガリン,ショートニング,菓子類,ケーキ類,パン,コーヒー用クリーム,一部のアイスクリームなど,多くの加工食品に含まれます。その過剰摂取は,冠動脈疾患のリスクを高めるとの報告もあり,欧米では摂取規制策がとられはじめました。一方で,欧米に比べて少ない日本人の摂取量範囲で疾病罹患を高めるかどうかは明らかではありません。


【文献】


1) 厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2015年版). 平成26年3月.
[http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/syokuji_kijyun.html]

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